ボクの目の先には滑り台の上に立っている男の子がいた。その子はボクの方を振り返って得意満面に手を振っていた。
危なかっしいな……
ボクはその子を見てヒヤヒヤしていた。ボクの気も知らないその子は滑り台を滑って降りて来た。楽しくてたまらないようで、ボクの側に来て手を引いた。
また滑るの……もう何回目なんだよ。
ボクはうんざりしながらも、その子に手を引かれて滑り台の登り口まで一緒に歩いた。滑り台の階段は急でまだ一人で登れないのだ。ボクは後ろから支えてあげて、その子が登れるように助けてあげた。その子の両親を方を見ると、夫婦揃ってベンチに座って仲良く談笑していた。子供の方には目もくれていなかった。
兄貴め……ボクに自分の子供を押し付けといて、自分たちはくつろぎやがって!
そう、手を引いて歩いている男の子は、ボクの「甥」なのだ。もう何度目なのか忘れたけど、ひたすら繰り返して滑りっていた。
可愛いな。でも子育てって疲れるな……
これだけ疲れるんだから、たまには兄貴夫婦も息抜きしてもいいけどね。本当は子供同士の遊び相手でもいればいいのだけれど。
子供の遊び相手がいなくてごめんね。
ボクは笑っている甥を見つめながら思った。ボクが結婚して家庭を築いて子供が持てればよかったんだけど、どうやらそれは無理そうだ。そもそもボクは子供自体が苦手なのだけれど、こうやって甥の面倒を見ているのは、せめてもの罪滅ぼしだ。
この子はボクみたいにゲイにならないで欲しいな。
一度、家で遊んでいるときに、おばあちゃんの化粧道具箱から、口紅を出して顔に塗って遊んでいた。周囲の大人は子供のいたずらと思って笑っていたけど、ボクだけは内心でヒヤヒヤしていた。
頼むから……君はゲイにはならないでくれよ。
兄夫婦は一人以上の子供を作るつもりはないようだった。ボクの一族なんて別に断絶しても興味はないけれど、この子が一人で背負って行くことになるのだろう。この子が大人になったとき、ずっと独身でいる叔父さんを見てどう思うだろう。きっと「この人はなんで結婚しなかったのかな?」とか不思議がるだろう。
ボクらがいる公園は子供連れの若い夫婦でごった返していた。何十組の夫婦がいるんだろう。とにかく数え切れないぐらいの家族でいっぱいだった。夫婦連れの姿を見ていると羨ましく感じる。ボクは好みの男性を見つけるたびに、一緒にいる女性を敵意の眼差しで睨んでいた。
おっと……甥を見張っていないといけない。
気がつくと滑り台に飽きた甥はジャングルジムの上の方にどんどん登っている。ボクは甥の後を急いで追いかけた。
<つづく>