兄貴への手紙<2>

 職場で仕事をしているとき、スマホのメールの着信音が鳴った。メールの相手を確認すると兄貴からだった。

 お盆は帰省できるの?

 また……帰省の確認のメールか。ボクはメールの返信をしないでスマホを置いてから仕事を再開した。年末年始。ゴーデンウィーク。お盆。毎年、少し前の同じ時期になると、ボクがいつ帰省できるのか確認のメールが来る。すぐにメールの返信をしないのは、兄貴に嘘をつくのに決心するための時間だ。

 ごめん……仕事が入ったから帰省できそうにない。

 ボクは二時間近く経ってから、兄貴にメールの返信をした。

 じゃあ九月や十月の連休に帰省できないの?

 すぐに兄貴から返信が来た。ボクはまた時間を置いてからメールの返信をした。

 その時にならないと帰省できるかわからない。もしかしたら今年は年末年始しか帰省できないと思う。

 そう返信した。

 全部嘘だ。

 本当はゴールデンウィークもお盆も連休も帰省できる。毎年、兄貴とはなるべく顔を合わせないようにしている。ただ……ボク自身に帰省する気持ちがないだけだ。別に兄貴が嫌いなわけではない。兄貴の嫁が嫌いなわけではない。甥も嫌いなわけではない。これらは全て将来に対する備えだ。ボクと実家に合わせて帰省することなんて昔の兄貴は気にもしていなかった。考え方が変わったのは結婚してからだ。これが長男の自覚というものなのだろうか。

 ボクの兄貴はゲイではない。そう絶対に言い切れる。ボクは小学生の時に兄の机の引き出しの中にエロ本やAVがあるのを偶然に見つけたことがある。まだ性の目覚めすらしていなかったボクにはビデオのパッケージの裸体の女性たちが気持ち悪く見えた。なんとなく直感で、それを見つけたことは黙っていた。いつだったか忘れたけど、ゲイが生まれた家系には、過去にもゲイがいたなんて話も聞いたことがある。でもボクの兄貴は違っていた。弟の方はゲイだったけれど。

 もし帰省できる日があったら事前に知らせてね。

 ボクは兄貴のメールを見て心が痛んだ。恐らく帰省できる時があっても、事前に連絡しないだろう。そう思いつつ返事を返さなかった。

<つづく>