兄貴への手紙<3>

 この場を借りて、兄貴に秘密の手紙を書きます。

「早く結婚して子供を産んで、俺にも祝いをさせてくれよ」

 そう言ってくれたよね。ボクは適当に笑ってごまかしたけど。今のままでいくと、きっと兄貴からお祝いを受けることはなさそうだ。兄貴はボクのことをゲイだなんて想像もしてないと思うけどね。家族の中では母さんだけがなんとなく気がついてるけど、母親の胸の中には他にも家庭内の秘密が沢山あるし、きっと兄貴には話すことはしないと思う。

 兄貴の結婚式はとってもよかったよ。奥さんも綺麗だったよ。

 兄貴が奥さんのどこが好きになったのかもわかるし、ボクも彼女となら仲良くなれそうだと思った。でも両家の一族が並んで紹介してる時、ボクはなんだか居づらかったんだ。通常の人たちは、こうやって血を残していくのに、自分はどうなるんだろう?って身内に囲まれながら考えてしまった。ここにいていいのかな?って思ってて、早く終わらないかなってずっと思ってた。もしボクが好きな人ができて結婚したとしても、ひっそりと二人だけで式もしないで済ますことになるんだろうなって思ったりもした。そもそも相手も見つけられそうにないけどね。親戚からは次は弟の番だねって声をかけられる度に、適当に笑ってごまかしてる自分が情けなかったよ。

 不器用なボクと違って兄貴はなんでも器用にこなせるし、結婚してからも夫婦で仲良くしてる姿を見て羨ましいなって思ってる。お互いに苦手な所を補い合って生きてて、ボクもそんな家庭を築けたらなって思ってる。見てるだけで微笑ましくなってくるよ。

 でも……結婚式が終わった後に思ったんだ。

 いつか父さんと母さんが亡くなったら、ボクの肉親は兄貴だけになってしまう。

 そしたら兄貴とはよっぽどのことがない限りは、連絡を取らないようにしようかと思っている。きっと迷惑をかけることになると思うんだ。兄貴はボクに気を使ってくれて、ボクに家に遊びに来いとか誘ってくれるかもしれないけど、兄貴には迷惑をかけたくないんだ。だから現時点でも、なるべく兄貴とは距離を取ろうとしているんだ。ボクが兄貴のメールにつれなく返信してるのは、その理由からなんだ。

 ボクの中である予感が渦巻いてる。恐らく父さんと母さんが亡くなった時点で、ボクはいろんな意味で解放される。もう自分の人生がどうなろうと自己責任だ。どんな方向になるかはわからないけれど。自分の中できっと何かが変わる予感がしている。

 同性と結婚したり同棲してるかもしれない。
 何も変わらずに独りで死んでいくのかもしれない。

<つづく>