ゲイにとっての保毛尾田保毛男

 おぉ……懐かしいキャラクターが登場したな。今日の夕方に「保毛尾田保毛男」に関するネットの記事を見た時にそう思った。

 現在、読んでいる『カミングアウト・レターズ』という本の中にも、以前に読んだ石川大我さんの『ボクの彼氏はどこにいる?』という本の中にも、「保毛尾田保毛男」に関する記述があった、それくらいゲイの人にとっては忘れられないキャラクターだ。

 ボク自身にとっても、保毛尾田保毛男にはいい思い出はない。

 確か小学生の低学年の頃だった。兄と一緒にテレビ番組を見ている時に、いきなり保毛尾田保毛男が登場した。面白いと言うよりは、気持ち悪いと言う印象を子供ながらに抱いていた。まだ当時のボクは同性愛に目覚めていなかった。そもそも小学生の低学年ということもあり、ホモということもあまり理解していかなかった。ただ保毛尾田保毛男を見て、漠然と気持ち悪いという印象だけを抱いていた。

「たかおみは、保毛尾田保毛男に似てるよね」

 そう兄貴から言われた記憶がある。恐らくからかい半分で言っただけだろうけど、ボクは「まさか似てる訳がない」と思った。こんなキャラクターに冗談でも似てると言われただけで嫌な気分になった。

 それから中学時代になって、ボクは自分が同性愛者だと気がついた。その時に真っ先に頭の中によぎったのが保毛尾田保毛男だった。だって中学時代のボクが知っているホモの知識といえば、保毛尾田保毛男しかなかったからだ。

 ボクって……あの保毛尾田保毛男と同じなのか……

 自分が気持ち悪いと嫌悪した人になってしまったんだ。そう悩んでいた時期もある。

 ボクは中学時代から高校時代にかけてカミングアウトしていたけど、同級生の中には、「神原って保毛尾田保毛男だろ!」と言われたことは、一度や二度ではない。他の冗談は笑って受け流すことができたのに、保毛尾田保毛男の名前を出された時は、「嫌なこと言ってくれるな……」と苦々しい思いをして黙って聞いていた。

 そして今日……久しぶりにネットニュースで保毛尾田保毛男の写真を見た時、何故か嫌悪感を抱かなかった。むしろ自分の中の苦い思い出とともに懐かしい思いが沸き起こってきた。

 あなたのおかげで、ボクがどれだけ嫌な思いをしたか分かってますか?

 ボクは写真を見ながらそう思った。久しぶりに見た保毛尾田保毛男は、少しも老けておらず子供の頃に見たままに思えた。そして沢山の人から叩かれている保毛尾田保毛男を見ていると心が痛んだ。何だか悲しくなってきた。