さて、少しだけ話は進んで中学時代を卒業して高校一年になる。
「そういえば……神原って『H書店』って知ってる?」
教室で同級生と雑談をしている最中、突然にそんなことを言われた。
「H書店? もちろん知ってるよ」
その書店はボクの地元では有名だった。有名だった理由はエロ本の専門店だったからだ。ボクの学校近くというか住んでいる市内の中で、唯一といっていいほど店の軒先に堂々とエロ本を陳列している店で、店の前を歩けば嫌でもエロ本が目につく状態だった。ボクも幼少の頃から店の存在は知っていて、「なにか怪しい雰囲気の店があるな」と認識していた。ただ同性愛者のボクには裸の女性には興味がなくて関係のない書店だった。
「この前、H書店で立ち読みしてたんだけどさ……」
「そうなんだ……」
休みの日にH書店の前を通り過ぎると、中学生や高校生らしき子供が立ち読みしている姿を見かけていたので、同級生が立ち読みしても不思議には思わなかった。軽蔑するよりもむしろその本屋で立ち読みしていると、女子生徒から冷たい視線で見られるので、よく堂々と立ち読みができるなと感心していた。
「それで本屋で見かけたんだけど、あの本屋って神原が好きそうな本が置いてるよ」
「ボクが好きそうな本?」
「ホモ向けの本。ページをめくってみたら、男のパンツ姿の写真とか沢山あったよ」
「ふ〜ん。そうなんだ」
「表紙も下着姿の男だったよ」
「へぇ……」
ボクは全く興味がなさそうな態度を取っていたけど、内心では興味深々だった。
「興味なさそうにしてるけど、どうせお前のことだから今日の帰りに買いに行くんだろ?」
ボクは高校時代ではカミングアウトしていたので、同級生はみんなボクがゲイであることを知っていた。
「まさか……そんな本なんて買いに行かないよ!」
そうムキになって否定しつつも、ボクは心の中でH書店に行ってみたいと迷っていた。
<つづく>