同性愛者の性長記録<7>

 瀬戸君と向かうH書店の軒先では、休日にも関わらず朝早くから立ち読みをしている人が沢山いた。もちろん立ち読みしているのはエロ本だ。定年を過ぎたおじさんや、日曜にもかかわらずスーツを着ているサラリーマンらしき人、そして高校生らしき学生が立ち読みしていた。ボクは路上から丸見えの場所で、よくエロ本を立ち読みできるなと感心しながら見ていた。H書店の外観は木造建ての平屋で築年数はとても古そうだった。
 
 瀬戸君は店の入り口に立つと、躊躇することもなくドアを開けて入って行った。ボクはいかにも「彼の付き添いです」という感じで、一緒に店に入って行った。店のカウンターにはお爺さんが一人だけいた。恐らく店員はこの人だけだろう。お爺さんはカウンターの脇に置かれた小型のテレビを見ていた。書店だから本だけを扱っているのかと思っていたら、アダルトビデオなども置いていた。

 瀬戸君を見ると棚に並べられた一冊のエロ雑誌を取り出して、ボクの存在を忘れて集中して読み始めていた。ボクに与えられた時間は彼が買う本を決めるまでしかない。ボクは一見興味がなさそうな振りをしながら、次々と棚の本に目をやった。

 なかなか見つからないな……

 瀬戸君がいる手前もあって本を買うのは無理だとしても、せめて同性愛者向けの本が、この世界にあることだけでも知りたかった(田舎なので、そういったことも全く無知だった)。何度も店内を往復して本の表紙や背表紙を見て、同性愛者向けの本がないか探していた。ただ店内のどこを見ても裸の女性がプリントされた本だらけだった。立ち読みしている人達は、食い入るように裸の女性を見ていた。

 そのうちボクは気分が悪くなってきた。

 きっとノンケの男性が裸の男性の写真に囲まれていたら同じような気分になるのではないだろうか。ボクにとっては裸の女性に囲まれていても、全く興奮する気分にならなかった。ただ悪酔いしたような気分になっていた。

 同級生に騙されたのかな・・・・

 ボクの探索能力がないだけかもしれないけど、そもそもこういった店が、どういったカテゴリーに分けて陳列しているのか理解ができなかった。棚に並べている本の統一感がまるで無いように思えた。でもきっとノンケの男性から見れば、それなりに統一感があるのだろう。

 ボクは真剣に立ち読みをしている瀬戸君を見た。情け無いことに、ボクにとっては美人の女性の写真集を見るよりも瀬戸君の方がよっぽど魅力的に見えた。

<つづく>