ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています。毎日更新中@福岡

小説『怒り』の感想

怒り(上) (中公文庫)

怒り(上) (中公文庫)

 

 正確に言うと同性愛コンテンツではないのだけれど、ゲイの登場人物が出てくるのでこのサイトで紹介する。吉田修一さんの小説『怒り』(中公文庫)を読んだ。既に映画化もされているみたいだけど、登場人物がどんなことを考えているのか内面的なことを知りたいため小説で読むことにした。

 ゲイの登場人物が出てくる内容だけ抜粋して説明すると、大手企業に勤めているゲイの「優馬」が有料ハッテン場で出会った「直人」と同棲を始める。同棲を始めた直人の過去は全く知らないまま、優馬の母親や兄夫婦とも関係を築いて仲を深めていく。ただあるテレビ番組をきっかけに、一緒に同棲していた直人に対して、過去に起こった夫婦殺害事件の犯人ではないか?という疑惑を強めていくことになる。疑惑を強めていく中、直人は突然に優馬の前から姿を消してしまう。何故直人は姿を消したのか?はたして直人は犯人だったのか?というあらすじだ。実際には、過去の殺人事件に関連して東京、千葉、沖縄の三つの土地を中心に同時進行に話が進められていて、この優馬と直人が登場するのは東京のパートのみだ。

 この吉田修一さんという小説家は、何やらゲイ業界に詳しい気がしていて、以前に読んだ『悪人』という小説の中でも、福岡のゲイ業界に詳しい人でないと書けないような描写があった。小説『怒り』の中では有料ハッテン場の内部の描写(上巻P.56)もある。さらにゲイ向けのアプリに関しても描写(上巻P.53)されている。ゲイ役として登場してくる、優馬という人物の内面的な考えも、ゲイの人ではないと小説に書けないのではないか?と思いつつ読んでいた。

 小説で出てきた気になる言葉を抜粋して感想を述べていく。

自分たちのような同性愛者は結婚をすっ飛ばして墓の心配なんだなと笑いが込み上げてくる。(下巻P.46)

 優馬の母親が亡くなって、東京近くの霊園を探しているときに、優馬が考えたことだ。実は……ボクもかなり似たようなことを考えていた。自分の将来を順番に考えていると、完全に「結婚」という過程が抜け落ちていて、はるか先の「葬式」を真っ先に想像してしまう。ボクも優馬のように、その事実に気がついてしまって独りで笑ってしまったことがあった。

優馬ってさ、実はゲイを低くみてない? だから一番大切な仲間の前では必死に隠そうとするんじゃない?(上巻P.274)

 ボクはゲイだけど、ゲイを低く見ているのかもしれない。普通の人たちに対して劣等感を漠然と持っているような気がする。

物心ついたころから自分の気持ちや思いが、親や友達に嫌な思いをさせるらしいことに気がついていた。好きな人たちに嫌な思いはさせたくない。自然と自分の気持ちや思いを口に出さなくなり、それに慣れ、気がつけば出せない人間になっていた。(上巻P.138)

 ただゲイであることの劣等感だけで隠しているわけではなくて、カミングアウトすることによって、親や友達など大切な人たちに迷惑をかけてしまうので隠しているのも事実だ。ボクがゲイであること隠しているのは、この一つの理由からというわけではなくて、いくつもの理由が複雑に絡み合っている。

 この小説を読み進めていくうちにテーマは、「人を信じる」ということかな?と思いながら読んでいた。信じれなかった人。信じていた人から裏切られた人。東京、千葉、沖縄の三つの土地で「人を信じる」というのが話の中心になっていたと思う。

 この優馬という登場人物が、有料ハッテン場で出会い同棲することになった直人が殺人犯かもしれない?とう疑惑を抱いてしまい、直人のことを「信じる」ことができたのかは小説を読んでもらえればわかるが、ボクは有料ハッテン場で出会った人のことを信じていない。きっと相手も信じていないだろう。所詮はその場だけの関係だからだ。人を信じるには、その人の現在だけではなくて過去のことも知る必要がある。有料ハッテン場で知ることができるのは現在だけだ。ただ人の過去を探っていくと綺麗な面だけではなく、汚い面も出てくるだろう。ボク自身……このサイトに書いているように、仕方がないという言葉を理由に汚いことを沢山してきた。

 ボクの中で人を「信じる」と「信じない」という境界線はどこにあるんだろう……そう思いつつ読んでいた。その答えはまだ出ていない。もっと感覚的なもので答えが出るものでもないのかもしれない。

 優馬という登場人物が、今回の事件を経て内面的に成長しているのが分かる。ボクは最後の優馬の登場シーンを読んで、彼が今後どうやってゲイとして生きていくのか続編を読みたくてしょうがない。

 ここからなんだよ。ボクが読みたいのは!いいところで終わらないで欲しい!
 
 そう心の中で思いながら本を閉じた。