仕事に生きる同性愛者<5>

 会社に勤め始めて1年2ヶ月ほど社員寮に住んでいた。別に一人暮らしをしてもよかったんだけど、京都の大学を卒業して東京に出てくると同時にアパートを探したりするのがめんどくさかったからだ。

 ボクは2LDKの社員寮を兼ねた賃貸アパートに4歳ほど年上の男性と一緒に住んでいた。ボクとは違う部署の先輩社員で、とても失礼なのだが全く頼りない人だった。なんというか……やることなすこと段取りが悪く見ていて危なかっしいのだ。とても自分よりも4歳年上に見えなかった。彼の部屋も共有部分もボクが掃除を担当していた。気がついたら休みの日は彼のために料理まで作っていた。でもボクらは仲が良かった。休みの日になれば一緒に買い物に出かけたり、飲みに行ったりもした。彼と丸一日、共有スペースでコタツに入って雑談してる日もあった。

 見知らぬ他人と共同生活なんて冗談じゃない!と、言う人も結構いると思うけど、どうやらボクは共同生活が結構得意なようだ。

 ずっと炎上してる案件を担当しているせいか彼は帰宅するのが遅くて、夜中の1時過ぎに帰宅していた。ボクは既に眠りの世界に入っていて、彼が玄関のドアを開ける音でよく目が覚めた。そして廊下を歩く足音を聞き、ため息をつきながら服を脱ぐ音を聞き、シャワーを浴びる音を聞いた。

 ボクは布団の中で、彼の立てる物音を聴きながら安心して眠りについた。

 ボクも完全に眠気が覚めてしまえば部屋から出て、遅い食事している彼と雑談したりして職場の愚痴を聞いてあげた。目が覚めて彼が1時を過ぎても帰っていないことが分かると心配でなかなか眠れなくなかった。

 そして入社して1年経って彼は別の案件に入ることになって社員寮から出て行くことになった。ボクは彼の荷物の梱包を手伝いながら、手伝いながらと書いたが……実際は全てボクがやったんだけど。だって引っ越し業者が回収に来る日の夜中になっても、全く手をつけてなかったからだ。しかもボクが作業している横で、彼は漫画本を悠長に読んでいた。あっ……愚痴を書いてしまった。でもボクはそんな彼が好きだった。別に愛情とか抱いてなかったけど、頼りなくて、のんびりとした彼の性格が好きだった。

 多分……彼のことを兄のように思ってたんだと思う。恐らくだけど、きっと彼も口うるさい弟のようにボクのことを思ってくれたと思う。 

 なんとか朝までかかって荷物の梱包が終わった。そして宅配業者が荷物を引き取って彼を駅まで見送った。

 その日の夜、布団に入って眠りにつこうとしたボクは急に孤独感に襲われた。

<つづく>