仕事に生きる同性愛者<10>

 この断トツNO1の黒歴史を書こうかどうか迷ったけど勇気を出して書くことにする。

 面談中は社内の会議室で上司と二人きりだ。ちなみに面談相手の上司は、会社内でボクのことを最初にホモ扱いしていじった人だった。ボクは会議室に移動して上司と仲良く雑談しながら面談を進めていた。別に仕事の態度などで注意を受けることもなかったので、今入っているプロジェクトのメンバーの雰囲気や客先の担当者の話をして進めていた。どちらかというとボク自身の話よりは他の人について話していた。しばらくすると上司がタイミングを見計らった感じで重要な話を切り出して来た。

「お前って部署異動とか嫌かな?」
「えっ……? 部署異動するですか?」
「まだ確定してないけど、○○部に異動してもらおうかって話が出てるんだけど、念のために本人の希望も訊いておこうかと思ってさ」 

 ボクはその話を聞いて内心で焦っていた。なぜ焦っているのかと言うと部署異動は嫌じゃなくて、もっと別の理由があった。実はその○○部はかなり暇な部署で有名だったのだ。そんな暇な部署に異動されたら、ボクの孤独感を紛らわすことができなくなってしまう。

「あの……誤解はしないで欲しいんですけど。部署移動は嫌じゃないんですけど○○部って暇ですよね? ボクはもっと忙しい方が好きなんですけど?」
「確かに○○部は暇だけど、でも数年ほどお前を見てきたけど、あの部署の仕事内容ってお前の性格とは合ってると思うんだよね」
「ボクはもっと沢山仕事をしたいんですけど……どちらかと言うと家に帰らなくてもいいくらいなんですが?」
 
 ボクの言葉を聞いて上司は呆れて笑い出した。

「プライベートを充実させればいいだろ。俺が若い頃は女とデートすることばかり考えてたよ」
「でも……暇な時間をどう潰したらいいか分からなくて!」
「お前も付き合ってる彼女と早く結婚しろよ」
「……」

 そうだ忘れてはいけない。そういえば……ボクには彼女がいるという設定だった。この上司は面接では真面目になる。普段はボクをホモ扱いして楽しんでくせに卑怯だ。面談が終われば、皆んなの前で、ボクのことをホモ扱いして遊ぶくせに……でもボクはこの上司が大好きだった。ボクが黙っていると上司は続けて説得してきた。

「暇かもしれないけど、絶対に○○部の仕事内容自体はお前の性格に合ってると思うよ」
「……」

 嫌だ……これ以上に暇な時間ができるのは絶対に嫌だ。ボクはそう思っていた。だって平日の仕事をしている時間だけが、孤独感を感じられないで済むからだ。休日になっても「早く平日になって仕事が始まらないかな?」と待ち遠しくてたまらないのだ。どう説明したらいいか分からず、かといって本心で説明することもできずに気がつくとボクは胸が熱くなっていた。

「お前って社内でも客先でも人当たりが優しい性格してるから○○部の方が向いてるって」
「……」

 若い頃のボクには、その仕事が性格が向いてるとか関係なかった。でもどうしても自分の気持ちをうまく説明する言葉が見つからなかった。

 あなたの指摘通りにボクはホモです。だから彼女なんていなくて全て嘘です。仕事で寂しさを紛らわせて、家に帰ってもやることも無くて、休日は本や映画を見て虚像の世界に浸ってごまかしてます。ホモでも出会いはあるかもしれないけど、でもボクは大学時代から色々試したんだけど全て駄目でした。

 そんなこと説明をすることは絶対にできなかった。気がつくと目から涙がポロポロ落ち始めていた。

<つづく>