愛から遠く離れて<3>

 四条大宮に住んでいる彼との出会いはインターネット上のチャットサイトだった。

 大学時代は、ゲイ向けの出会い系サイトで誰かに会ってみたり、有料ハッテン場に行ったりして、目についたものは手当たり次第に試していた。田舎育ちのボクにとっては、どれも全て目新しいものばかりで、その過程でチャットサイトにも目がついたのだった。ボクが当時に使用していたチャットサイトだけど、3年くらい前までは存在してたんだけど、さっき確認したら閉鎖されていた。昔は「ゲイ チャット」というキーワードで検索したら、ゲイ向けのチャットサイトがいくつもヒットしたのに全て消えてしまっている。やはりゲイ向けアプリの登場によって、わざわざチャットサイトに書き込む人もいなくなったのかもしれない。

 チャットサイトには、複数人が同時に会話する「大部屋」と言われるスペースがあったり、二人だけでツーショットで会話する「小部屋」もあった。ボクは大勢で同時にチャットするのが苦手だった。大部屋にはチャットに慣れた人たちが多くいて、話の流れが早くて当意即妙で答えるのが苦手なボクには無理だった。だからボクは適当に目についた小部屋に入室してから会話していた。それぞれの小部屋には、先に入室している人の自己PRのような説明書きが表示されていた。例えば「東京の在住の短髪・顎髭の175.60.29。暇な奴は気軽に声をかけてくれ」といった感じのアピール文を書くことが機能があった。

 ボクは京都に住んでいたので、関西地域の近場に住んでいる人たちの部屋を探していた。でも関西だと目につくのは「大阪」ばかりで、たまに「京都」という言葉があっても、40歳を超えた人ばかりだった。たまにはそういった人たちとも会話していたけど、大体は同じような会話ばかりだった。

 趣味は何?
 今日は何をしてたの?
 どこに住んでるの?
 見た目は芸能人の誰に似てるの?
 どんなHが好きなの?

 そんなことをダラダラと会話していると、あっという間に1時間は過ぎていった。

 チャットを始めた数日間は、新鮮で楽しめたけど1週間もすれば飽きていた。ボクは広く浅く人と付き合うのが苦手で、特定の人と狭く深く付き合うのが好きだ。そういう性格だから、チャットは自分の性格には合わないと思っていた。同じ理由で、ゲイ向けアプリも性格には合わず、すぐに止めてしまった。ボクはチャットサイトがどういったものなのか、大体の事情が飲み込めて興味がなくなっていた。実質上でもチャットサイトをしたのは、1ヶ月間もなかったと思う。

 もうチャットも飽きたし止めようかな……

 そう思いながら、ツーショットの小部屋を眺めていると、あるPR文が目がついた。

 京都市内在住の会社員です。170.59.26。

 ボクは「あっ……京都に住んでる年齢の近い人がいる」と思った。それから緊張して、しばらく迷った後に入室ボタンを押した。この彼がチャットを通して、実際に出会った最初で最後の人になったのだ。

<つづく>