愛から遠く離れて<7>

 それからボクらは週に1回から2回のペースで会い続けた。でも会い続けたとは言っても、いつも会う時間は「夜」だった。

「おみ君って自分のことを『ネコ』って言ったけど、もしかして『リバ』なんじゃない?」

 彼の腕枕で寝ていると急に言われた。

「えっ……なんでなんですか?」
「俺は『タチ』寄りの『リバ』なんだけど、気がつくと君の方が『タチ』役になってることが多いんだけど?」

 言われてみれば、そうかも知れないと思った。ただボクは彼に気持ちよくなってもらいたくて、彼が「○○○を触られるのが気持ち」とか「○○○したい」とか言っていれば、なるべく彼の期待に沿うように行動していた。彼からは「セックスに対して真面目だね」言われた。彼と出会うまで、ボクはじっと自分のことを『ネコ』だと思っていたんだけど、ようやく自分のポジションを自覚できた。彼の言う通りにボクは『リバ』だった。

「俺たちの関係ってどうなんだろうね?」
 
 ボクも同じことを考えていたから、心の中を見透かされたかと思った。

「どうなんでしょうね……」

 ボクもどう答えた良いのか分からなかった。ボクは大学時代になってから誰にも恋愛感情を抱いていなかった。彼のことは本名も分からないし、どんな仕事をしているのかも分からないままだった。でも……このまま会い続けていたら、もう少し彼といる時間が増えていけば、ひょっとすると本気で好きになるかもしれないという予感はあった。
 
「これって付き合ってるうちに入らないのかな?」
「分からないです……」

 ボクは正直に自分の気持ちを答えた。ずっといつまでこの関係が続くんだろうと思っていた。心の中では不安で一杯だった。「本当にボクと寝ることで満足してるのかな?」と不安だった。これは別の機会に書くけど、ボクはバックで受けるのが怖かった。本気で恋愛感情を抱いて、安心できる相手でないとバックをする気はなかった。

「たかぽんさって本当にバックとかしたいと思わないんですか?」
「そんなにバックは興味ないんだよね。君がその気になったらヤラしてくれればいいよ」
「ごめんなさい。まだもうちょっと時間がかかりそうです」
「いいよ。焦らないで」

 ボクは「それで本当に満足してるのかな?」と不安だった。何度か彼を受け入れようかと思ったけど、どうしても最後の決心がつなかった。
 
 ボクらは、その後も何度か肉体関係を重ね続けた。

 もう何回目の肉体関係か忘れた日、いつものように朝まで彼の家で寝て、通勤する彼を見送って駅の改札口で別れた。

「じゃあ……またお願いしますね」

 ボクは別れ際に彼に言った。

「うん。じゃあね」

 いつものように笑顔で手を振って改札口をくぐっていく彼を見ながら、ボクは何か違和感を感じていた。

 いつもみたいに「メールするね」って言わなかったな。

 彼が見えなくなるまで見送って、そのことに気がついたボクは不安に襲われた。

<つづく>