愛から遠く離れて<10>

  しばらくすると、今度はたかぽんさんの方がタチ役になって刺青の男性を相手にバックで責めていた。それから3人が交互にキスしたりバックをしたりフェラをしたりして乱れていた。つい先日まで彼の部屋で一緒に寝ていたのが信じられなかった。彼はボクが聞いたこともないような声を出して興奮していた。そして他の2人も同様だった。

  バックは興味ないって言ったじゃん……

  ボクは大部屋の入り口から離れて壁にもたれて彼らの喘ぎ声が漏れて来るのを聴いていた。その声を聴いていると、なんだか胸が締め付けられるような気がした。ボクがもたれている薄いベニヤ板の向こうで彼が他の男性と寝ている姿を想像するのが辛かった。でもこの現実から逃げてはいけないような気がして立ち去ることができなかった。

  これじゃあボクと寝てても退屈だったろうな……

  別に裏切られたとか思いは抱かなかった。むしろ怒りよりも恐怖の気持ちが起こったいた。彼と肉体関係を結んでいたことが怖くなっていた。まだボクは未熟者で彼を肉体的に満足させることができなかったんだろうなと思った。それに彼に深入りする前でよかったとも思っていた。もっと彼のことを好きになって、こんな姿を見てしまったらショックも大きかっただろう。

  彼とどんなに長い時間を一緒にいても、もう彼のことを好きになることはないだろうな……
 
  ボクは彼を見ながらそう思った。別に有料ハッテン場に来ていること責めるつもりはなかった。ボク自身も来ているのにそんな資格はなかった。ただボクにはこういった複数人で乱交するのは絶対に無理だった。乱交している人を否定はしないけど少なくともボクとは価値観は違うと思った。ボクはもっと一人一人ときちんと向き合って関係を結びたいと思っていた。同性同士で性行為をすること自体に罪悪感を抱いていたけど、その線を守らないと今まで育ててくれた親や、ボクを大切にしてくれた人達に対して申し訳ないよう気がしていた。結局は有料ハッテン場に来て肉体関係を持つことに変わりはないけど、ボクの勝手なこだわりとしてそういう気持ちを抱いていた。

  しばらくすると2人の男性は、たかぽんさんを残して大部屋から出ていった。シャワー浴びに行ったんだと思った。入口のカーテンをめくって大部屋を覗くと、たかぽんさんは疲れ切った様子で毛布にくるまって寝ていた。ボクは毛布にくるまっている彼を見ながら話しかけようかと迷っていた。きっと京都にいる限りはどこかで再会するはずだった。京都市内でゲイの人達が集まる場所なんて限られていたからだ。どうせここで逃げても別の場所でも出くわしてしまう可能性があった。もう彼から隠れてコソコソするのは嫌だった。それならいっそのこと、ここで彼とは一度話した方がよいと思っていた。ボクはそっと大部屋に入って彼の布団の枕元にしゃがみこんだ。

「あの……たかぽんさん」

  ボクは寝ている彼の肩を揺らして声をかけた。彼はくるまっていた毛布から顔を上げて眠そうな目をしてボクの顔を見た。

「なんだ君か……」

  彼は少し罰が悪そうな顔をしてそう言った。ボクはそもそも何を話したかったのかも忘れてとりあえず言葉を続けた。

<つづく>