出逢いたくなかった人<4>

 あっ……危なかったな。

 ボクは彼が遠ざかって行く姿を確認すると逃げるようにその場を離れた。

 はっきり言えばボクは彼から捨てられたことになるのかもしれないけど、嬉しくてしょうがなかった。全く傷つかなかった。彼がいつのタイミングで次の相手にメールをしてたのかも分からない。もしかしたらボクと会う約束をしてから次の人にもメールを送っていたのかもしれない。でもどうでもよかった。誰だか知らないけど、彼とメールのやりとりをしていた人に感謝したい気持ちで一杯だった。
 
 でも……次に彼が会おうとしている人も、彼を見たら驚くんじゃないだろうか?

 そう思った。次に会った人の前でいきなり烏丸通りを横断しなきゃいいけどと思った。彼が次に会う人がどんな人かは分からないけど少し気の毒に思った。

 ゲイ仲間にもいい人もいれば悪い人もいる。人間だから当然なことなんだけど、それまで出会った人たちは、きちんと話せば理解してもらえる人たちばかりだったので、ボクはそんなことも忘れて少し調子に乗っていた。ボクはビルのトイレでセックスするなんて絶対に嫌だった。もし仮に彼が若くて見た目が好みのタイプでもトイレでヤろうと言われたら断わっただろう。そもそもそんなことを言う人には恋愛感情も抱かないと思う。

 ボクは家に帰ってすぐに風呂に入った。彼と話している時には「殺されるかも」と思っていたので、無事に家に帰れただけでも嬉しかった。

 それにしてもあんな人もいるんだ……

 風呂から上がって携帯電話を枕元に放り出して布団に入ってから、彼のことを再び思い出して恐怖心を抱いて怖くて震えていた。それから家に帰っていつも通りの生活に戻れたことに感謝していた。「神様助けてくれてありがとうございます!」と調子よく感謝して安心して眠りについた。ずっと緊張していたせいか、すぐにぐっすりと深い眠りに入ってしまった。目を覚ますと朝になっていた。

 よっぽど疲れてたんだ。朝まで爆睡しちゃった。

 起きてご飯を食べようと布団の上で体を伸ばしている時だった。枕元の携帯電話がメールの着信を通知するためにチカチカ光っているのが目についた。

 誰からかメールが来てるのかな。

 ボクは携帯電話を開いてメールを確認しようとした。

 えっ……未読メールが30通以上ある!

 携帯の画面には大量の未読メールがあることを通知する表示がされていた。でも疲れていたせいか、全くメールの着信音に気がつかなかった。「どうせ悪戯メールだろうな」と思いながら、ボクはメールの送信者を確認して驚愕した。

 この未読メールって、全部が昨日の夜に出会った彼から送られて来てる……

 それから嫌な予感を感じつつもメールを開いて本文に目を通し始めた。

<つづく>