小説『Four Seasons』の感想

Four Seasons―季節は過ぎて街はまた緑に染まる

Four Seasons―季節は過ぎて街はまた緑に染まる

 

「Four Seasons」という小説を読んだ。著者の城平海(きひらかい)さんは、ゲイ雑誌「G-men」でポルノ小説を書いている。でもこの作品はポルノの要素は少ない。もともとこの小説もゲイ雑誌に連載されていたらしく漫画本でも出版されている。

 いつものようにネタバレを含むあらすじ紹介なので嫌な人は読み飛ばして欲しい。

 本編は女性との視点と男性の視点で各章ごとに交互に書かれている。物語は裕美と賢治が結婚式する直前から始まる。ただ結婚式の前に賢治がひょんなことから男性と肉体関係を持ってしまってゲイに目覚めてしまう。自分がゲイであることを自覚してしまった賢治は、新宿2丁目に出入りするようなりに徐々にゲイの世界にのめり込んでいく。そして男性同士の肉体関係を重ねていく。その後、裕美も賢治がゲイであることを知ってしまってもともとキャリア志向の強かった裕美との関係が壊れていく。2人の間には子供もできたが、賢治がゲイであることを知った裕美は精神的に追い詰められて無理をして仕事をしてしまい流産してしまう。結婚生活が維持できなくなって二人は別れて別々の道を歩んでいく。

 主人公の賢治はもともと自分がゲイであると思ってなかった。新居に引っ越すための準備をしている時に、出入りしていた業者の若い男性と肉体関係を持ってゲイであることを自覚してしまう。本を読んでいると「こんなことってあり得るの?」と思う人もいるかもしれないけど、実際に似たような境遇の人に会ったことがある。その人は結婚して子供が3人いた。ある日、大阪に出張に行って暇だったから成人映画館に入った。ところがその成人映画館は男性同士でやり合いをする場だったらしく、座って映画を見ていたら隣の席に見知らぬ男性が座って彼の体を触って来たらしい。

 男同士で気持ち悪いと思ったけど抜いてくれるならと思って、ほっといたら凄く気持ちが良かった。はっきり言って女とヤるより男の方が気持ちいい!やっぱり男同士の方が、お互いにどうやったら気持ちがいいか分かるのかな?

 彼はボクに対して熱く語ってきた。それから彼は男性と肉体関係を持つのにハマってしまって有料ハッテン場に出入りするようになった。ボクは「こんな人もいるんだ……」と驚きながら彼の話を聞いていた。
 
 女性の裸が載ったエロ本ばかり読んでる男の子から「内緒だけど○○君だけは可愛いと思う」と密かに打ち明けられたこともある。この小説に書いてあるケースも起こりうるだろうと思った。きっとふとしたタイミングで自分の中のノンケの比率が変わってゲイの比率が多くなって目覚めてしまうこともあるのだろう。

 本編の気になったところを抜粋して紹介する。

「奧さんとか子供とか、守るものがあればねぇ、石にかじりついてでも頑張るんだろうけど。でもゲイの場合はね……」
 言われてみればそうかも知れない。ぼくには守るものがなにもない。ふとこの世に生を受けなかったぼくの子供のことを思い出す。
「でもケンジ、三十年後のアンタがアンタの扶養家族よ。自分のために頑張るのよ。アタシらの老後は誰にも頼れないんだから」

 賢治とゲイバーのマスターとの会話のやり取りだ(P.167)。この小説の中では、ゲイとして生きていく上での将来像に関しての描写がいくつかある(P.199、P.241〜242)。守るべきものがなかった賢治は転勤を拒否して簡単に大手の勤め先も辞めてしまう。最終的に賢治はある男性と関係を築いていくことになるけど、なんだかボクには幸せな未来があるように思えなかった。

 裕美は流産してしまうけど、子供を流産した時の裕美と賢治の反応の違いが興味深かった(P.101)。裕美の方は失った子供のことをずっと気にかけているけど、賢治の方は、失った子供への言葉は「またきっと、子供は授かるよ」しかなく裕美の体のことばかりを気にかけていた。そのことに裕美はゲイである賢治が流産して内心でホッとしているのではないか?と疑い始める。この場面が決定的な2人の関係の亀裂になっていく。

 守るべきものか……親や兄貴の家族ぐらいしかボクにもないな……

 そう思いながら小説を読んでいた。マスターの「三十年後のアンタがアンタの扶養家族よ。自分のために頑張るのよ。アタシらの老後は誰にも頼れないんだから」という言葉が胸に突き刺さってくる。ボクはゲイだから女性には恋愛感情を抱けない。だから子供を授かることもできない。将来のことを考えると漠然とした不安だけが出てくる。