ボクは彼がゲイなのかノンケなのか判別がつかないで悩んでいた。そんなある日のことだった。
ボクの部署の上司と彼の部署の上司は仲が良くて両部署から数名づつが集まって飲み会をすることになった。ボクは彼の近くに座りたかったのに離れた位置に座ってしまった。時々は遠くから彼の様子を盗み見ながら、近くに座っている女性たちとどうでもいいような雑談をしていた。その時に彼の近くに座っている女性が大きな声を出した。
「あぁ〜古賀さん。小指が立ってる!」
その女性の声が大きくて飲み会の席にいた人たちが一斉に彼女の方を振り向いた。
「本当だ!小指が立ってる!」
「古賀さんってそっち系の人なんですか?」
あちこちから古賀さんに対して言葉が浴びせられた。ボクは古賀さんの方を見た。チューハイか何かなのだろうか……ドリンクが入ったグラスを持っていて、その手の小指が立っていた。「いったい……この人たちは何を騒いでるの?」と疑問に思った。この時はボクは小指が立っているというのが何を意味しているのか分からなかった。
「小指が立ってるって何か意味があるんですか?」
ボクは興味津々で隣に座っている女性に質問した。
「小指を立てるのってよく女性がやる仕草なんだよ〜あまり男性はしないよ〜」
「へぇ〜そうなんですね。知らなかったです」
そう答えながら自分のグラスを持つ手を見ると驚いたことにボクも少しだけ小指が立っていた。周囲に気づかれないようにすぐに小指をグラスに当てた。もしかしたら指摘されなかっただけで今までの飲み会でも誰か気が付いた人いるのかもしれなかった。これは飲み会が終わってから家に帰ってネットで調べたんだけど、別に小指が立っているのが女性的な仕草というわけでは必ずしもないようで、無意識のうちに癖でやっている男性も普通にいるようだ。これは余談だけど、ボクは大学時代に腕時計をつけ始めたんだけど腕時計の向きを特に意識しないで内側につけていた。ゼミ仲間から「腕時計を内側につけるのは女性だよ!男は外側だよ!」と指摘されて慌てて向きを変えたことがある。ボクはこの辺の一般常識が欠落していた。
「なんで小指を立ててるんですか?」
「?」
ボクは離れた場所から古賀さんを観察していると、彼も小指を立てるのが何を意味しているのかわからないようでキョトンしていた。
「普通は男の人って小指は立てないですよ〜」
彼もようやく周囲の反応から小指を立てる仕草が女性的なものだということを理解したようだった。ボクは素知らぬ顔を決め込みながら、その女性の言葉に少し傷ついた。つまり彼女に言わせるとボクも「普通の男の人」じゃないってことになるようだ。
「古賀さんってそっち系なんですか?」
その場にいる人たちの頭の中で「そっち系」という言葉は「ゲイ」という言葉に自動で置換されているだろう。彼の隣に座っている女性は声も大きくて質問もストレートだった。そのストレートな質問はずっとボクの心の中で秘めたままにしていたものだった。まさか突然にこんな事態になるとは思ってもみなかった。ボクは彼からどんな答えが返されるのか固唾を飲んで見守っていた。
<つづく>