いつも見ている風景<6>

 ボクは少し離れてから振り返ってあの店が入っている建物を見つめる。そこにはついさっきまで裸で寝ていたあの建物がある。ボクと同じ仲間が夜になると隠れるようにあの建物を集まって、明け方になると隠れるように店から出て街に消えて行く。みんな昼間は普通の人として生きているのに、なんて肩身が狭いんだろうと思う。

 きっと今もあの建物の中で、男同士が不毛な肉体関係を結んでいるんだろうな……

 そんなことを考えてしまう。あの建物の中で何が行われているかも知っている人は少ない。何も知らない酔っ払ったサラリーマン達が騒ぎながら建物を前を歩いて行く。

 一人で住宅街を歩いていると向かいからパトカーがやってきた。もしかしてさっき店から出たところを見られてつけてきたんじゃないかと思って、特に悪いことをしていないのに緊張してしまう。パトカーは息を飲んで緊張しているボクの側をゆっくりとしたスピードで通り過ぎて行く。目を合わせてなくても運転席と助手席に座っている警察官がじっと見ているのが感じられる。

 店で男と寝ただけで別に警察に捕まるようなことしてる訳じゃないのに……

 後ろめたいことをしていない訳ではないことも分かっている。決して誇れるようなことをしている訳ではないことも分かってる。やっぱり心のどこかで罪を犯しているような意識がある。これが男同士で寝るのではなくて男と女の関係で寝た後であればパトカーとすれ違っても緊張しないのだろうか。何事もなくパトカーが通り過ぎて思わず溜め息をついてしまった。

 ふと空を見上げると煌々と照る月があった。それからあたりを見渡すと大きなマンションやアパートが目についた。深夜遅い時間だから、ほとんどの部屋の電気が消されているけど、所々でカーテンの隙間から電気が漏れている部屋もある。

 あの明るい部屋の中では、夫婦や家族で一緒にテレビを見てたりするのかな……あの暗い部屋の中では、夫婦や付き合っているカップルが一緒に寝てたりするのかな……もしかしたら男と男が一緒に寝ているのかしれない。女と女が一緒に寝ているかもしれない。それに子供がスヤスヤと寝てたりするのかな……

 そんなことを想像していると夜中に独りで歩いている自分が情けなく思ってくる。ボクは急いで住宅街を歩いて家路につく。そして家に帰ってから寝巻きに着替えて少しだけテレビを見て心が落ち着いてから布団に入る。独りで入る布団はとても冷たい。

 結局、今日も独りで寝て終わるのか……
 
 ボクは真っ暗の部屋の中で、さっきまでいたあの建物を思い浮かべる。今この時間も、あの建物の中で男と男が寝ているだろう。今日は駄目だったけど、いつかあの店でずっと一緒に生きているような誰かに出会うことができないかなと想像しながら眠りにつく。

<終わり>