それでもボクは盗ってない<5>

 翌日、学校に行って体操服に着替えているといつものように冷やかされた。足の毛を切っているのに「ホモなのに毛が生えている」と言われた。とても悲しかったけどボクは聞こえないふりをして急いで体操服に着替えた。

 もうどうせ足の毛を切ってても言われるのなら、もう切らなくてもいいよね……

 そう思って切るのも止めた。

 梅雨の季節になると雨が降って体育の授業は中止の時になる時が多くなった。そんな時は教室で「保健」の授業があったんだけど、着替えるのを冷やかされなくて良かったと思う反面で、この授業も少しだけ憂鬱だった。保健の教科書の中で性の目覚めの話が出てくると、たいていは男性と女性との性の関係を前提に体育の先生が説明するんだけど、なんとも自分の居場所がないように感じた。

 やっぱり……男性で男性が好き自分って変わってるんだな……

 そう思っていた。男女の際どい内容が書いていて周囲の同級生は冷やかすことはなかったけど自意識過剰になってしまいなんだか教室に居づらかった。授業では男女の性に関する内容が多かった。ボクの高校時代にはまだ同性愛に関する記述は教科書のどこを探しても見つからなかった。まだ現在の保健の教科書ではLGBTに関して記載がないようだけど、近いうちにそういった内容が追加されることになるのかもしれない。そうなるとボクのようにカミングアウトしている生徒には非常にいづらい授業になると思う。

 そのうち梅雨が終わって夏が近づいてきた。夏が近づくと今度は水泳の授業が始まることになった。

 あぁ……水泳の授業かめんどくさいことになりそう……
 
 そう嫌な予感がしていると、すぐに同級生から予想通りの冷やかしをされた。

「そろそろ水泳の授業が始まるけど神原は楽しみにしてるんじゃない?」
「神原の前で水着はヤバイよね!」
「神原の水着姿を見たら俺もホモに目覚めるかもしれない!」

そういった内容の話し声や笑い声が微かに聞こえてきた。

あぁ……本当に馬鹿馬鹿しい!

 いつものように無視しながらそう思った。

 あんたらの裸なんて見たくもないんだよ。もう全てがめんどくさい……

 水泳の授業の1週間前ぐらいだった。もう彼らに冷やかされるのも嫌だったし、なんだか彼らの前で水着になるのも嫌だった。ボクはおずおずと母親に切り出した。

「来週から水泳の授業が始まるんだけど、授業がある日を休んでもいい?」
「何かあったの?」
「もう……めんどくさいから」

 そう目をそらしながら母親に伝えた。まさか学校でホモ扱いされて冷やかされてるなんて口が裂けても言えなかった。そんなことを伝えると激怒して学校に電話するかもしれなかった。

「いいわよ……」

 ボクのただらならぬ空気を察したのか母親は理由も訊かずにあっさりと欠席を認めてくれた。

 中学時代は気にしないで水泳の授業に出席してたのに、ボクは高校時代の3年間の全ての水泳の授業を休んだ。1日たりとも出席していない。別に苦手で嫌だから休んだのではなくて子供の頃から水泳を習っていてむしろ得意だった。もちろん同級生はボクが水泳の授業がある日をわざと休んでいることに気がついていた。でもそのことについては何も言ってこなかった。みんなもホモがいなくてほっとしていたのかもしれない。

<つづく>