それでもボクは盗ってない<6>

 少し先の話になるんだけど、この水泳の授業と似たような困った行事があった。それは修学旅行だった。「なんで修学旅行が関係してくるの?」と疑問に思うかもしれないけど、問題は修学旅行のお風呂だった。こんなことを書いてると「ホモだから女の立場で男と一緒に風呂に入るのが抵抗あるんでしょ?」と思う人もいるかもしれない。ただ勘違いしないで欲しいのが、ボクは同級生と一緒に風呂に入っても気にしないけど、むしろ同級生の方が気にしている状態だった。

 どうやって風呂の問題を回避しようかな……

 修学旅行の当日を迎えるまで、心のどこかでずっとモヤモヤとした気持ちがあった。選択肢としては風呂に入らないぐらいしか思いつかなかった。

「神原さんは修学旅行自体よりも夜の風呂の方が楽しみなんでしょ?」

 親しい同級生からもそう言って冷やかされた。

「バレた? 実は楽しみにしてるよね〜」

 ムキになって否定すると嘘ぽくなるから、むしろ相手に合わせて冗談のように受け流していた。ボクの言葉を聞いて笑っている同級生たちを見ながら「そりゃ……水泳なら水着を着てけど風呂は全裸だから抵抗あるよね」と思っていた。

 そんなことを思いながら憂鬱な気持ちで宿泊先の旅館についた。そして旅館に着いて案内された部屋は2人部屋だった。ボクは部屋に入ってからある重大なことに気がついた。

 あれっ……部屋に風呂がついてるじゃん。

 先生は共同の露天風呂に入る時間を伝達していたけど、わざわざ露天風呂に行かなくても、各部屋についているユニットバスに入ってしまえばいいことに気がついた。

「露天風呂に入るのがめんどくさいから、この部屋の風呂に入るね」

 ボクはたまたま同室になっていた松田君に何気ない感じで言った。すると思わぬ返答が返ってきた。

「俺も部屋の風呂に入ろうかな。神原さんが出てすぐに入るから風呂のお湯は抜かないで残しといて」

 どうやら松田君も露天風呂に入るのがめんどくさくなったようで、部屋の風呂に入ると言い出した。ボクは風呂にお湯を入れて服を脱いで浸かった。風呂に入っていると廊下の方では「風呂に行こう」などと同級生達のにぎやかな声が聞こえていた。なんだかこっそりと部屋の風呂に入っている自分が情けなかった。でも露天風呂に入って同級生たちからよそよそしくされるのも嫌だった。きっとボクと目が合うとひきつった顔になるのが想像できた。

 ボクは風呂に入ったまま泣いてしまった。それは寂しかったからじゃなくて実は凄く嬉しかったから……

<つづく>