ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています@福岡

映画『ハッシュ』の感想

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 映画『ハッシュ』を観たので感想を書きます。監督はゲイであることをカミングアウトしている橋口亮輔さん。既に橋口亮輔さんの映画は『渚のシンドバッド』『二十歳の微熱』『恋人たち』の3本を観ている。エッセー本も2冊ほど読んだ。

 この映画だけどゲイの人たちには有名で多くの人が観ていると思うので簡単に内容を紹介する。

 ゲイとしての生活にどっぷり浸かりながらペットショップで働く直也(高橋和也)はゲイの世界で生きていくことに不安や不満を漠然と抱えている。一方で土木関係の研究所で働く勝裕(田辺誠一)は、職場ではゲイであることを隠して生きている。そんな中で2人は出会って付き合いはじめる。歯科技工士として働く朝子(片岡礼子)は、通りすがりの若い男とセックスしたりして自暴自棄な生活を送っていた。ゲイカップルの2人は偶然出会った朝子の出現により関係が揺れ動きはじめる。朝子は勝裕がゲイだと知った上で、「結婚とか付き合うとかではなく(勝裕の)子供がほしい」と伝える。映画『二十歳の微熱』ではゲイの世界を扱っていたけど、主人公の大学生はお金を稼ぐためにゲイの売り専をしていただけで実際にはゲイではなかった。このハッシュにではゲイのカップルの生活を描くなど本格的にゲイの世界に踏み込んで触れている。ゲイ同士のカップルと赤ちゃんを産みたいという女性の3人の関係が描かれている。

 ゲイのカップルの直也と勝裕の出会いはゲイの集まる街(恐らく新宿2丁目)ですれ違って目が合ったところから始まる。具体的にどんな会話をしたのかは描かれずに、次のシーンではいきなり朝のベッドシーン後から始まる。出会ってから直也の部屋で2人が寝たことは分かるんだけどベッドシーンは全く描かれていない。

 この一連の場面だけど……きっとゲイが見たら思わず羨ましくて微笑んでしまうだろうなと思う。

 直也がベッドから起きると勝裕がコーヒーを入れるためお湯を沸かしている。勝裕は直也の部屋のポッドなど無断で使用したことを詫びるけど直也は戸惑いながらも嬉しかったはずだ。

直也「俺やるからいいよ。寒いから服着なよ」
勝裕「うん」

 そういって直也はコーヒーを入れるけど別の部屋で物音が聞こえる。恐る恐る直也は「どうした?」と訊ねる。もしかしたら勝裕が帰ろうとしているのではないかと不安になっている。すると「靴下〜あった!」と勝裕から反応がある。その声を聞いて直也はほっとして嬉しくてコーヒーを溢れさせてしまう。このシーンだけど映画の冒頭シーンとの比較できるように描かれている。映画の冒頭で直也の部屋に泊まった見知らぬ男性から「泊めてくれてありがとう」と言われ直也は携帯電話の番号を交換しようとするけど相手はさっさと部屋から出て行ってしまう。

 直也と勝裕の関係には継続性があるってことを描写している。恐らくノンケの人が見ても「だから何?」ぐらいに思われそうだけど、きっと2人の継続性を予感させる描写はボクも含めて多くのゲイの人には欲しくてたまらないものだと思う。

 この2人の関係は時間が経つにつれて深まっていく。次に2人が一緒に部屋にいるシーンではまだ直也の部屋のまま。この頃は2人はまだ同棲していないんだろう(勝裕の着ている他所行きの服でなんとなく分かる)。さらに後のシーンでは引っ越して部屋が変わっていて置いている家具で2人が同棲を始めていることが分かる。この辺はわざわざ言葉で説明しない方が色々と想像できて逆に面白かった。

 直也と勝裕の2人のゲイとしての認識の距離感も面白かった。直也はゲイバーに出入りしていて顔なじみも沢山いてゲイの世界にどっぷりはまっている。一方で勝裕はどちらかというとゲイの世界とは距離を取っているようで、職場にもゲイであることがバレないように気を使っている。サラリーマンの世界で隠れゲイとして生きている。このゲイの世界にはまっている度合いが2人の喧嘩の原因にもなる。

 特に家族や子供を持つってことに対する考え方にも違いが出ている。「幼い頃に父親を亡くしているから自分が父親になったところを想像したことがない」という勝裕の言葉に、直也は以下のように反応する。

直也「当たり前じゃんだってゲイなんだもん。だって男好きでしょ? 俺なんか初めからないもんだと思ってるよ。家族とかそういうの。だってさ俺たちみたいな世界って恋人と長続きするのなんて稀じゃん。一人でいる覚悟なんてなかったらやってけないでしょ?」

勝裕から「直也は強いよな」と言われて、直也は以下のように反応する。

直也「独りでいるのは嫌だから勝裕と一緒にいるんじゃん……」

次に別のシーンでは以下のようなやり取りがある。 

勝裕「俺はゲイかもしれないよ。いやゲイだよ。いやゲイだよ!そうだよ。だけどさ。だからってこういう風に生きなきゃいけないって決めつけるのはどうかな?だっていろんな枝葉があって俺な訳だし」
直也「枝葉ったってなんたって根っこはゲイでしょ?」

 ボクがどちらの考えに似ているかと言えば、きっと直也の考えとほとんど一緒だ。直也も勝裕も程度の差こそあれ、ゲイとして生きることに希望を見出せていない。この辺についてはちょうど来週辺りに別の文章で触れようと思っている。簡単に触れるけど、きっとボクが一番欲しいのは「分かち合う」こと。この映画の3人を見ていて、ずっと漠然と思っていた自分の欲しいものがはっきりと分かるようになった。

 2人は喧嘩もするけど仲直りして関係を深めていく。その深まっていく関係の中に、朝子も一緒になって仲を急速に深めていく。乗り気でなかった直也も赤ちゃんを作ることに徐々に真剣に考えていくようになる。ところでボクがゲイなのでゲイの話ばかり触れてきたけど、朝子役の片岡礼子さんはとても綺麗な女性だと思う。ゲイのボクが見ていてもそう思うから不思議だ。この映画のメインテーマは赤ちゃんを作ることなんだけど、最後まで3人の間に生まれる赤ちゃんは出てこない。その代わりにエンドロールで3人の赤ちゃんの頃の写真が出てくる。恐らく本当に3人の役者の赤ちゃんの時代の写真を使ったんだと思う。この映画を最初に観たときに、「あれ?最後まで赤ん坊が出てこないの?おかしいよね?」と疑問に思ってたんだけど、そのうちなんとなく意図が見えてきた。

 観終わってからずっと映画のタイトルの『ハッシュ(Hush)』の意味がずっと謎で気になってたんだけど、橋口亮輔監督のエッセー本に理由が書いてあった。「シッ!」の擬音語で「静かに」というサインの意味。静かにして欲しい理由は「赤ちゃんが寝てるから」だそうだ。それでメインテーマは『Hush Little Baby』。さっきも書いたけど、この映画では最後まで3人の間に生まれた赤ちゃんは出てこない。きっと人生をやり直そうとしている3人が赤ちゃんなんだと思う。

 この映画だけど簡単に答えを提示してくれていないように思う。

 家族とはどういうものなのか? 親子とはどういうものなのか? 

 それを各自で考えてみてと、きっかけを渡してくれような映画のようだ。