それでもボクは盗ってない<7>

 高校2年生の終わり頃か、3年生の初め頃だったか正確な時期は覚えていない。ボクは初めて好きな男性に告白していた。そもそも告白というものをしたことがなかったので、これが生まれて初めての告白だった。

「ボクさ……松田君のこと好きだから!」

 授業の合間の10分間くらいの休み時間だった。振り返って後ろの席に座っている松田君と雑談していて急に告白してしまった。別に恋愛話をしていたわけでもないのに本当に唐突に告白してしまった。前日から準備をしていたわけでもない。高校2年生になったぐらいから、ずっと彼のことが好きだったからいきなり告白してしまった。

「はぁ?」

 ボクの言葉を聞いて驚いた彼の顔を今でもはっきりと覚えている。なんで告白しようと思ったのかも全然分からないけど、急に自分の気持ちを伝えていた。中学時代に同級生にカミングアウトとした時と同様に何の抵抗も感じずに告白してしまった。ただ話の流れで彼に気持ちを伝えようと思って口に出していた。

「本気?」
「うん」
「アホか!」
 
 彼はかなり困った感じでそう言った。

「うん!」

 ボクは笑いながら頷いた。そのままロクに会話もできずに、すぐに次の授業が始まってしまった。すぐ後ろの席に彼がいると思うとそわそわした。でも告白したことの全く後悔していなかった。「あぁ〜とうとう言っちゃったよ」と恥ずかしく思うぐらいで特に深刻に悩むこともなかった。むしろボクよりも告白された彼の方が授業中に悩んでいたのかもしれない。そりゃボクがホモだと分かっていても、ただの仲が良い友達と思ってた奴から本気で告白されたら戸惑うだろう。しかもなんの前触れもなく雑談中にいきなり告白されたんだから。

 しばらくして授業が終わって次の休み時間が始まった。ボクと松田君は告白前と全く変わらないでくだらない雑談を始めていた。彼はさっき告白に対して何も言ってこなかった。

 ほらね……やっぱり松田君だから大丈夫だった。

 ボクは嬉しかった。告白しても彼なら大丈夫だという自信があった。彼が男に興味がないのは知ってたから、ボクの愛情を受け入れてくれることはないのは知ってたけど拒絶もしないと思っていた。彼は告白前も告白後も全く変化がなかった。

 ただ……告白して変わってしまったのはボクの方だった。

 告白して自分の気持ちを隠す必要が無くなったので解放された結果、「松田君かっこいい」「松田君可愛い」「松田君のことが好きだから」と彼への気持ちを本人の前で普通に口に出すようになってしまった。彼はその度に「アホか」「止めろ」と困った感じでボクの頭を軽く叩いたりするんだけど、彼が本気で怒っていないことが分かっていたから止めずに言い続けていた。むしろ彼が否定せずに受け入れてくれるのが嬉しくて甘えてしまっていた。

 えぇ……と自分でも書いていて怖いんだけど、大人になって振り返ると中学時代にカミングアウトしていたことも無防備すぎて怖いんだけど、高校時代に同性にいきなり告白して、君のことが好きと愛情溢れる発言をひたすら言い続けた積極性も怖い。なんで大人になってこんなに臆病になったんだろう。ちなみにボクは松田君にしたことを同じことを社会人になってもやってしまうことになる。

「松田君のことが好き!」

 高校時代の残り1年間くらいで、彼に数え切れないぐらいにこの言葉を言っていた。同性からの告白爆弾を毎日のように浴び続けて、普通に接してくれた松田君の度量の大きさに大人になったボクは驚くばかりだ。

<つづく>