LGBTブームと気持ちの変化<5>

 その2人組の男性たちはボクと同じ冷泉公園通りを歩いて来たようだ。ちょうどボクも公園内を一周して冷泉公園通りの沿いに戻っていたので、彼らが公園に入って来たのにすぐに気がついた。

 もし……今回の企画の関係者がこれから書く文章を読んだら、「こそこそ見ていてあなたはストーカーみたいな方ですね?」と不快に思われるかもしれない。だから前もって謝罪しておきます。

 不快な思いをさせて申し訳ありません。

 ただボクがあの公園にいたのは事実です。

 ボクはストーカーではなくて自分のゲイとしての素顔を公の場で晒すことができない、ただの臆病者です。皆さんのことを羨ましいと思って離れた場所から見ていました。

 2人の男性は公園内をきょろきょろ見渡しながら、ブランコ前に並んでいるベンチの1つに荷物を降ろして座った。離れた場所から見ると2人とも若くて20代にぐらいに見えた。ボクは彼らと20メートルくらいしか離れていなかったので、なるべく目を合わさないようにして公園の椅子に座ってスマホをいじっている振りをしていた。時計を見ると12時17分になっていた。

 あの人たちって……きっと関係者だよね?

 しばらくこっそりと彼らを見ているとカバンの中から虹色の旗のようなものを取り出した。その瞬間に彼らが関係者であることが確定した。twitter上で目印としてレインボーフラッグを持った人がいると告知されていたからだ。まだ集合時間まで時間があったから、彼らはカバンの中から何かを出して食べて時間を潰していた。それから時々は公園内をきょろきょろと見渡していた。きっと参加者が集まってこないか探してるんだろうなと思った。ボクの方に視線が向かう度にドキドキしてスマホをいじっている振りを続けた。

 それからボクもそれとなく周囲を見渡してみた。ただ今回のイベントの参加者らしき人は見当たらなかった。子供連れで遊んでいる夫婦や、サッカーボールを蹴って遊んでいる子供達やランニングをしている男性など明らかにイベントとは無関係な人しかいなかった。むしろボクの存在だけ浮いているような感じがヒシヒシと伝わって来てなんだかこの場に居づらくなってきた。

 あまり……同じ場所に長時間もいるのもおかしいよね。

 そう思って場所を移すことにした。似たような通り名で紛らわしいけど「冷泉公園通り」側から真反対の「冷泉通り」側に移動することにした。ただ移動する時にブランコの前のベンチに座っている彼らの側を横切る必要があった。ボクはコートのポケットに手を入れて真っ直ぐ前だけを見ながら歩き出した。

 もし……この場で彼らに声をかけたら今後の人生も変わるのかな……
 
 ボクは彼らの側を通り過ぎならそう思った。ボクがまっすぐにベンチに向かって歩いてくるので、彼らの視線が向いているのがわかった。それでもボクは視線を合わせないように真っ直ぐ前だけ見て歩いて通り過ぎた。「この場で立ち止まって声をかけることができたら」と何度も思ったけど足を止めることができなかった。ただ無関係な人のように通り過ぎること、それがボクにできる限界だった。

 なんだか陽のあたる世界でゲイであること公開している彼らが羨ましかった。でもボクだって中学時代や高校時代は同じだったんだ。もしボクが20代で彼らと同年代だったら気軽に声をかけることもできたかもしれないと思った。

<つづく>