ノンケの人たちからすれば平凡な望みなのかもしれない。でもゲイであるボクには一度は無理だと諦めてしまった望みだった。誰かと感情をぶつけあいたかった。誰かのために自分の時間を使っていきたかった。そうやって感情や時間を分かち合いたかった。
それともう1つイベントに参加している彼らを見ていて思ったことがある。
こんなことを書いたら怒られるのかしれない。でも正直に書いてしまうことにする。ボクはLGBTの社会活動に興味がなかった。自分がゲイであることを公にして社会活動をするつもりも全くなかった。そもそもボクはゲイとして生きていて差別されていると感じていない。ただゲイであることが生きにくいと感じている。それにちょっとした孤独感を癒すのなら、職場の同僚との触れ合いだけでボクは満足していた。だから何となく彼らに声をかけずらいと思った。
じゃあ……なんでこの場に来たのか?と問われば、ボクは「今まで生きてきた道」とは別の道を歩いてみたかったんだと思う。
しばらくの間、遠くから彼を見ていたけど寒くて震えがしてきた。晴れているとはいえ季節は冬だった。それに風も少しあった。2時間近く冷たい風にあたっていたので体が冷えてしまった。
もうそろそろ帰ろうかな……
彼らが撮影を始めて40分以上が経っていた。いつ終わるかわからなかったし声をかけるタイミングはとうに逃していた。公園の周囲にそれらしき人はいなくて、きっとLGBTの関係者でこっそり見てるのはボクだけだと思った。彼らの笑い声が大きくて立ち止まって「何事か?」と興味を持って見る人もいたけど、そのまま素通りして公園から出て行った。いつ撮影が終わるか分からないし、これ以上、遠くから見ていても無意味に思えた。ボクは元来た道を歩いて天神まで戻ることにした。それにはもう一度、彼らの側を通り過ぎて冷泉公園通り側に戻る必要があった。
最後にもう一度だけ通り過ぎよう……
そう思って立ち上がった。それから足を踏み出して彼らの元に向かった。近づくにつれて彼らの笑い声や音楽がはっきりと聞こえていた。
ボクの目の前には2つに分かれた道が伸びていた。
1つは「今まで生きてきた道」。もう1つは「歩いたことのない新しい道」。
「今まで生きてきた道」は先が見えて安心できる道。
「歩いたことのない新しい道」は先が見えなくて不安な道。
どんどん近づいてくるボクの方を何人かの参加者が見ていた。
この人関係者なの?
彼らの目がそう物語っていた。自分の心拍数が上がるのが分かった。
声をかけるのなら今だけど……
でもボクはさっきと同じように彼らと目を合わせないようにして側を通り過ぎた。
ボクはどちらの道を進もうかと迷いながらも「今まで生きてきた道」を歩くことを選択した。
いつも通りの安全な道を選択することにした。つくづく煮え切らない自分の性格が嫌になる。でもやっぱり今まで経験した過去を思い出すと新しい道を歩くことが怖かった。それに周囲にゲイであることを知られることも怖かった。ただ立ち止まって彼らに声をかけるだけ。そんな簡単なことがやっぱり怖くてできなかった。そもそも人が多くて話しかけやすい雰囲気だったら話しかけてみようなんて、自分でも他力本願の奴だと思う。ボクはそのまま彼らの側を通り過ぎて急いで公園から出て行った。
<つづく>