LGBTブームと気持ちの変化<9>

 天神に戻ってから、適当に目についた喫茶店に入ってコーヒーを飲みながら体を温めていた。そしてカバンの中から手帳を出してさっきの出来事をメモしていた。自分がどう行動したのか。自分がどう思ったのか。覚えている限りを急いでメモした。

 日曜日の天神は人が多くて男女のカップルや夫婦がいたるところにいた。さっきから隣に座っている男性が、ひたすら手帳に文章を書いているボクの姿を不審人物であるかのようにチラチラと見ていた。ボクは無視して文章を書く作業を続けた。今になって思うと、このサイトで文章を書き出したことだけが、自分の中で確実な前進だったと思う。勇気を出して書き始めてよかったと思いながら文章を書いていた。このサイトに文章を書き始めるのも何度も分岐点に立って書こうか書くまいか迷っていた。迷いながらでも文章を書き始めて、ずっと書くことを続けている。

 文章が書き終わってから喫茶店の椅子に座って、今後をどうしようかずっと考えていた。

 もし今度、LGBTのパレード近場で開催されるのなら、その場に行ってみたいと思っている。そしてもし可能だったら誰かに声をかけてみたいと思っている。それに今の所は何の当てもないけど、こういった活動とは別の道も模索していたいと思っている。

 とりあえず今回は道の分岐点に立つことができたので、当初の目標は果たすことができたよね。

 そう思って自分を励ましていた。

 その日の夜、家に帰って風呂から上がってtwitterのタイムラインを眺めていると、今日のイベントの写真がタイムラインに流れてきた。写真には何人かあの公園で見た顔があった。一瞬、写真の隅に歩いている自分の姿が写ってないだろうかと冷や冷やしたけど大丈夫だった。

 

 やっぱり羨ましいよな……
 
 写真を見ながらそう思った。きっとゲイであることをオープンにすれば厄介なこともあるだろう。でもゲイであることを偽って隠している自分には彼のことが眩しく見えてしまうのも確かだった。もしあの分岐路で「今まで生きてきた道」ではなく、「歩いたことのない新しい道」を選択していれば、この写真のどこかに自分も写っていたのかもしれない。でも今更になって悔やんでも仕方がなかった。

 今回は道の分岐点にまで立つところまで来れた。

 でも結局は「今まで生きてきた道」を選択して歩いてしまった。いつまでも過去にこだわって未来を切り開けないままでいてもしょうがない。現実逃避しても変わることができない。辛いけど現実に向き合って、もう一度分岐点に立って次こそは「歩いたことのない新しい道」を少しでも先に進んでいきたいと思う。

<つづく>