同性愛者の性長記録<9−2>

「三島由紀夫」という有名な小説家がいる。

 自分の記憶を紐解いていくと、テレビで出ているおかまキャラを除けば、一番最初に遭遇したゲイが「三島由紀夫」だった。もしかしたら地方に住んでいる多くのゲイの人たちにとっては似たような状況だったのではないかと思う。

 高校時代。教卓では女性の現代文の先生が授業をしていた。ボクは授業中の時間つぶしに国語の教科書と一緒に学校から強制的に買わされた参考書をパラパラとめくって読んでいた。

 その参考書の中には著名な小説家の紹介が書かれているページがあって、夏目漱石。芥川龍之介。太宰治。川端康成などが顔写真付きで載せられていた。

 適当にそのページをめくっていた時のことだった。ボクは「三島由紀夫」という小説家の紹介文に目が止まった。彼の代表作のいくつかの概要が書かれていて、『潮騒』や『金閣寺』などの簡単なあらすじが書かれていた。その中に『仮面の告白』という作品の紹介があって、あらすじに書かれた「ある言葉」に気がついた。

「同性愛」をテーマに赤裸々に書かれた.……(略)。代表作で自伝的作品である。

 細かい文章は忘れたけど、記憶を頼りに書けばこんな内容だった。そのあらすじの中には「同性愛」という言葉があって、ボクは吸い込まれるように読んだ。

 なんで三島由紀夫が同性愛をテーマにした小説を書いてるんだろう……

 そう疑問に思った。本屋の小説コーナーに行けば、三島由紀夫の本は大量に置かれていて自然と目に入っていた。なぜか三島由紀夫の本といえばオレンジ色のイメージが前からあった。きっと新潮文庫の三島由紀夫の作品がオレンジ色で目につきやすかったんだと思う。

 授業中だけど、ボクはなんの前触れもなく「同性愛」という言葉を見つけて興奮してしまった。頭の中であれこれと三島由紀夫について考えていた。

 そういえば中学時代の教科書に三島由紀夫の『潮騒』が載ってたな。

 小説の内容を思い返すと男性と女性の恋愛を描いていて、特に焚き火のシーンが頭の中にこびりついていた。なんだか妙にエロチックだった記憶が残っている。

 その三島由紀夫が同性愛の内容を小説に書いているというのだ。当時のボクには三島由紀夫がどうして同性愛を扱った小説を書いたのか理由が分からなかった。今ならインターネットで検索すれば、三島由紀夫がゲイだったという疑惑(家族は否定しているようだけど)がいたるところに書かれているけど、ボクの高校時代にはそんな便利な物がなかった。それに彼が自衛隊の駐屯地で日本刀で切腹自殺したなどの知識も全くなかった。

 同性愛を扱った小説が自伝的作品ってことは、もしかして三島由紀夫ってゲイなのかな?

 ボクは他の三島由紀夫の作品のあらすじを読んでみた。だけどそれ以上は同性愛について書かれてはいなかった。

 どちらにせよ同性愛を扱っているという『仮面の告白』って本を読んでみたいな……

 参考書に載っている三島由紀夫の勇ましい顔写真を見ながらそう思った。とりあえず帰り道に本屋に寄って『仮面の告白』を立ち読みしてみようと思った。

<つづく>

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