それでもボクは盗ってない<11>

 最悪だった。

 理由は分からないけど、せっかく体操服が見つかって騒ぎは収まるかと思っていたのに再燃してしてしまった。再び燃え広がった火は前回よりも激しく燃えていた。

「また神原が盗ったんじゃない?」
「やっぱりあいつ怪しいよね?」
「やっぱりホモの神原が犯人だよね?」
「あいつ聞こえてるくせに無視してる!」

 以前よりも露骨にボクに対して聞こえるように大きな声で言い始めた。そして遠慮のない疑惑の視線が注がれてきた。

 あぁ……もう無理だな。

 今まで黙って独りで耐えてきたけど、そろそろボク自身も口に出して言い訳をしないといけないと思った。ただ言い訳するのも苦痛だった。言い訳するもなにも「ボクは盗ってない」のだから、なんでわざわざ言い訳する必要があるんだろうと思っていた。とにかく反応したら負けだった思っていたけど、このままいくと反応しても反応しなくても負けになってしまいそうだった。

「なんかあったの?」

 後ろで騒いでいる人たちを見ながら、暗い顔をしているボクに松田君が尋ねてきた。

「また体操服が無くなったみたい……」
「またなの?」
「なんかボクが体操服を盗って思われてるみたいだけど、絶対に盗ってないんだけど……」

 ボクはそれまで松田君に対して体操服が無くなっている騒動について相談してこなかった。他の仲の良かったクラスメイトにも相談してこなかった。彼らを無用な騒ぎに巻き込みたく無かった。彼らはボクが疑われてことに気がついていたけど当事者のボクが無視していたので気を使って触れてはこなかった。こんなくだらない騒動に好きな人を巻き込みたくなかったけど、そろそろ口に出して言い訳をしないと思った。

「はぁ?……馬鹿馬鹿しい!!!」

 ボクの言葉を聞いた瞬間、松田君はイライラした態度でそう言った。大きな声ではなかったのに不思議と教室全体に響いた。ボクは彼の言葉を聞いて驚いてしまった。教室にいた同級生が一斉に彼の方を見た。

「神原さんが盗むわけないじゃん!!!」
 
 ボクは彼がここまで感情的になったのを始めた見た。それは教室内にいた他の同級生たちも同じだったように思う。教室にいた同級生たちが「えっ?」という感じで驚いて松田君を見ていた。普段、大人しいマイペースな生徒がはっきりと言い切った効果は凄かった。なんだか教室内の淀んだ空気が一気に晴れていった気がした。

「気にしなくていいんじゃない」

 そう言った彼はいつものように穏やかな表情に戻っていた。

「そうそう神原さんが盗むわけないじゃん」

 ボクらの近くにいた仲の良かった他の同級生も続けて言ってくれた。

「松田君の体操服が無くなったら神原さんが犯人で確定だけど!」

 そう笑いながら声をかけてくれた。

「確かに松田君の体操服なら欲しいかも……」

 ボクは嬉しくて恥ずかしくて照れながら言った。

「アホか!」
「いや……本気で松田くんの体操服なら本気で欲しい!」
「気持ち悪い!」
「くれないなら盗んでいい?」

 呆れて松田君はボクの頭を叩いてきた。ボクらのくだらない漫才のようなやり取りを仲の良い同級生は笑いながら見ていた。

 彼の言葉を受けて教室内でのボクへの疑惑は急速に薄れていった。「確かに体操服が無くなったり見つかったり変質者が盗っている感じではないよね?」という空気に変わった。

 それからしばらくして体操服が無くなった本当の理由が判明した。

<つづく>