ゲイブログを書く前後<6>

 ボクは自分で何かを作るよりも他の人が作った本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を見たりするだけで満足していた。世の中には一生をかけても消費しきれない娯楽作品が既にあふれていて、それに次々と新しい作品が生み出されていた。自分がわざわざ文章を書いて公開する必要性なんて感じなかった。

 でも『ボクの彼氏はどこにいる?』のように、ゲイの人が自分の人生を赤裸々に書いた文章をもっと沢山読んでみたいという願望だけは心の中でくすぶっていた。

 ボクはその後も相変わらず有料ハッテン場に通っていた。そしていつもと同じように個室の布団に寝転がって考えていた。

 いったい……いつまでこんな繰り返してるんだろう?

 そんなことを真っ暗な闇の中で考えていた。そんなことを考えている最中にも個室のドアを開けてボクの顔を覗き込む人たちがいた。それに近くの個室では誰かが肉体関係を持っているようで声が漏れていた。

 ボクは有料ハッテン場で複数を相手に乱交したりしない。過去に一度でも関係を持って安全だと知っている人と主に関係を持っていた。だから新しい肉体関係の幅も広まることが少なかった。それに初めての人に対して慎重に関係を進めていた。不審なところがあれば、即座に遠慮せず断っていた。そんな慎重な行動が災いして相手が「こいつノリが悪いな」という感じで冷められてしまうことも多かった。

 それに一番の問題は年齢だった。

 この時、既に34歳になっていた。年齢的にはまだ若い方に入るのかもしれないけど、通う店にもよるけど既に自分よりも若い人たちを多く見かけるようになっていた。

 このまま……ここに寝転がって誰かを待ちづけていていいのかな……

 もう社会人になって10年以上が経過していた。ずっと誰かを待ち続けていた。ずっと何かが起こるのを待ち続けていた。でも誰も現れなかったし何も起こらなかった。
 
 ボクの真っ暗の闇の中で、枕元に置いたスマホを手にとって電源を入れた。そしてchuckさんのサイトを開いて読んでいた。やっぱりchuckさんの文章は理由が分からないけど面白かった。

 もし……chuckさんと同じように文章を書いてみたら何かが変わるのかな? 例えば『ボクの彼氏はどこにいる?』の作者のようにホームページを立ち上げて文章を書いてみたら、ゲイの知り合いもできて状況が変わるのかな?
 
 この布団の上で、この先何年間も寝転がっていても状況は変わらないのは分かっていた。そしてどんどん不毛な時間が流れて老いていく自分の姿を想像すると時間がもったいなく思えてきた。

 ちょっと……文章を書いてみようかな?

 そう思った途端、この場所で無駄に時間を使っていることが惜しくなった。ボクは布団から起き上がって、ロッカールームで服を着て店から出て行った。

<つづく>