LGBTブームと気持ちの変化<13>

 今年の4月からNHKで放送される朝の連続テレビ小説『半分、青い。』にゲイの登場人物で出てくる。

 実と言うと……その情報をニュースで知ったときに怯えてしまった。

 NHKの朝ドラといえば、まさにボクの親年代の人たちが見ているドラマだ。定年を迎えたボクの両親も毎朝揃ってNHKの朝ドラを見ることを習慣としていた。そのドラマの中では、少女漫画家のアシスタントとして、ゲイの美青年役が出てくるらしい。そのドラマの中でゲイの登場人物がどんな扱いになるのか、どんな演技をするのか全く分からないが、ボクはゲイの登場人物が出てくると知った時に恐怖を覚えた。

 もし……ボクの両親が、そのドラマを見てゲイの登場人物を見たらどう思うんだろう? できるならそんなドラマを放送して欲しくない!

 そんなことを思っていた。

 母親はボクがゲイであることに恐らく気がついている。

 父親はボクがゲイであることを恐らく気がついていない。

 ボクの両親は、民放で放送されるドラマを滅多に見ることはないから、フジテレビの『隣の家族は青く見える』に関しては、ゲイのカップルが出てくると知った時も、「絶対に見ないだろうな」と安心していた。でもNHKの朝ドラとなると状況が違っていた。ボクが実家に帰省している時、朝から夫婦で並んでテレビの前に座って朝ドラを見ながら、ゲイの登場人物が出ているシーンを一緒に見せられると想像するだけでも気分が滅入ってきた。

 母親はボクがゲイであることを感づいても、そっと知らぬふりをしてくれている。きっとボクの方からカミングアウトしてくるまでは、知らぬふりを続けるつもりなんだと思う。そんな母親が朝ドラを見て、どんな感想を抱くんだろうと想像すると胸が痛んだ。

 どんな風にゲイの登場人物が扱われるんだろう……

 そう思いながら、今年の4月から始まるドラマの放送開始日が近づくのを、ずっと心の中で憂鬱に思っていた。

 でもこの展覧会で、親年代の人たちがLGBTをテーマにした展示物を見ている姿を見て、ただ単に恐れているだけではいけないと思えるようになっていた。

 ボクはまだ両親に自分がゲイであることをカミングアウトするつもりはない。でもいつか僕が親にカミングアウトする日も来ないとは限らない。

 いつか両親にカミングアウトすることになった時。「そういえば前にゲイの人が出ていたドラマを見たことがあった」とか「LGBTをテーマにした展示物を見たことがあった」とか、そんな小さな積み重ねがあれば拒絶されないかもしれない。そんな0.1パーセントの小さな積み重ねが大切なんだと思えるようになってきた。

 ボクはLGBTをテーマに扱った展示物を見ているボクの両親と変わらない年代の人たちの側に並んで立っていた。「すぐ隣に立って一緒に展示物を見ている男がゲイだと知ったら、この人たちはどんな表情をするのかな?」と思いながら並んで展示物を見ていた。

<つづく>