LGBTブームと気持ちの変化<14>

 ボクは展示物の側に平仮名で「かんそうのーと」と書かれたノートが置かれていることに気がついた。その感想ノートを手に取ってパラパラとめくってみた。ノートには9人ぐらいが書き込みをしていた。英語が書かれた文章があって外国人の書き込みもあった。福岡県でLGBTに関する啓発活動をしているNPO法人からの書き込みもあった。さらにLGBT当事者でない人も書き込みもあった。

「LGBT」という単語、そしてそういう人達に対して寛容なつもりでいましたが、展示物を見て自分がどこか上から目線でその人達をみていないかおごってはいないか?と考えるきっかけになりました。
自分のセクシュアリティについてはわかっていても、意外と他の人のセクシュアリティには興味がない。知ろうとしていなかったことに気づけてよかったです!

 そんな書き込みを見ながら思った。

 ボクの大学時代には、こんなLGBTをテーマに扱った展示物を出展しようなんて誰も思わなかっただろうな……

 もしこれだけ同性愛に対する理解が進んだ時代に大学生だったら、もっと別の道を歩むことができたのかもしれないと言う気持ちも沸き起こってくる。もしかしたらゲイであることを隠さずに公の場に出たりできたのかもしれない。今更悔やんでみても、どうしようもないのは分かっているけど。

 今まで一度も書いたことがなかったことを書く。

 ボクは大学時代に精神障害について研究していた。文系の学部だったから、あれこれともっともらしい理由をつけて、むりやり精神障害をテーマにしていた。

 なんで精神障害なんてテーマに扱っているの?

 そう同じゼミの仲間から不思議がられていた。

 でもボクの中で理由は明白だった。だって……自分が何者なのか知りたかったから。

 同性愛者=精神障害者

 大学生になった当時のボクの認識はそれくらいだった。

 このことは周囲には絶対に秘密にしていた。自分の心の中だけにずっと秘めたままにしていた。でも精神障害をテーマにしたとは言っても、同性愛を直接に取り扱ったことは最後までなかった。結局、自分が同性愛者であることに向き合いながら研究していくことが怖かったんだと思う。それに同性愛をテーマに扱ったら……きっとボクのことをゲイじゃないかと思う同級生も出て来たに違いないと恐れていた。

 急がなくていいから、じっくりと人の心の中に浸透していってくれればいいな。

 ボクはそんなことを思いながら、展覧会の会場から出ることにした。そして入り口に座っていた女子大学生と、入る時と同じように目があったので頭を下げてから会場を後にした。

 かれこれ会場に入ってるから1時間近くが経過していた。入場客の中できっとボクはかなり長い時間滞在していた方に入ると思う。ボクが滞在している間にお客は3回位入れ替わっていた。でもボクにとってこの展覧会はそれくらいの価値があった。

 この展覧会に来てみてよかったなと思った。

 そして展覧会の会場から出てエスカレーターを降りている時だった。

 そうだ……ボクも「かんそうのーと」に何かを書けばよかったな……

 今更になってそのことに思い至った。でも展覧会に戻ろうにも受付に座って女子大学生には顔を覚えられているため、不審者に思われそうで、なんだか戻るのが恥ずかしかった。

 だからこの場で感想を書かしてもらいます。

ボクは福岡県に住む30代中盤のゲイです。たまたまtwitterで、この展覧会にLGTBをテーマにした展示物が出ているという情報を見つけて訪れました。ボク自身はゲイであることを周囲に隠して生きています。何もできないボクが偉そうに言うのも恥ずかしいですが、少しでも多くの人が、この展示物を見て「ゆっくりと衣を染めあげるように人の心の中に浸透していってくれればいいな」と思いました。考える機会をくれてありがとうございました。

<終わり>