人見知りゲイの異常生活<中編>

 

 よくよく思い返してみると、ボクはよく街中で見知らぬ人から声をかけられる。

 日本人・外国人の区別を問わずに道を尋ねられることは頻繁にある。ただ……それだけでは飽き足らず、先日も「電車の中にカバンを置いたまま降りてしまってお金を貸してくれないでしょうか?」とか見知らぬ夫婦から声をかけられた。そんな感じで「お金を貸してくれないでしょうか?」と言われたことは何度かある。よっぽどお人好しに見えるんだろうか。

 他にも近所を歩いていたら、「いつも楽しそうに歩いているわね」と見知らぬお婆ちゃんから声をかけられた。なんでも老人ホームの窓からボクの歩く姿を見るのを、何人かのおばあちゃんが楽しみしているようで、「歩きながらニコニコ笑ってて楽しそうよ」と死ぬほど恥ずかしいことを言われた。もかしたらニコニコ笑って歩いていたのは好みのタイプの男性でも見かけたのか、よからぬ妄想でも展開していたのかもしれない。まぁ……それでもお婆ちゃんたちが喜んでくれたのなら嬉しい。

 最近、スタバやモスバーガーで見知らぬ人から声をかけれることが圧倒的に多い。

 つい先日、ボクはモスバーガーに引き篭もって、このサイトの文章を書いていた。3月11日に投稿した『ゲイブログのLINEグループが始まった』を書いている時だった。


 この文章の中盤から書いているけど、ボクの脳内では「ヤシュチャク」のBL妄想を全開にして文章を書いていた。

 ボクのBL妄想の中で、ヤシュウさんとchuckさんの初めての出会いの場面は決まっていた。

新宿2丁目で開催されたゲイイベントに、たまたま二人とも参加していて居場所がない感じで立っていた。そんな似た雰囲気にお互いに惹かれあって話をするようになる。なんとなくどこかで見たような顔だなと思って会話をしていると、同じゲイブログを書いているヤシュウさんとchuckさんだと判明する。そこから二人は一気に打ち解けて会話をするようになって二人並んで写真を撮ったりする。イベントを途中で抜け出して二人は夜の公園を歩く。なんとなくお互いの孤独な身の上を話しながら公園を歩いていて、二人は惹かれあっていることに気がつく。そして地下鉄の改札口で別れ際に大勢の人が見ている前で抱きしめ合う。 

 ここの妄想シーンで「ヤシュチャクキター」と、人気の少ないモスバーガーの店内でニヤニヤしながら、キーボードをバンバンと叩いてタイピングしていた。そんな時に隣の席に見知らぬ男性が座ってボクと同じようにパソコンをカバンから取り出した。でも、そんなことお構い無しに、ボクのBL妄想は止まることを知らずに爆進していた。

そこからヤシュウさんとchuckさんは日常の生活に戻ることになる。ただ何をしていても、ふとした瞬間にお互いの顔が思い浮かんでしまう。ある日の夜、chuckさんが深夜遅くまで仕事場に一人で残って仕事している時(電気がついているのはchuckさんの席だけ)にスマホを取り出して、あの日の夜に写した二人が並んだ写真を見つめる。職場の窓から見える背景は東京の夜景。ここでバックにBGMだ。(破り捨てようかな〜♪ いやはじめから〜♪ なかったものって思おうかな?〜♪)。流れる音楽は、ゲイカップルが出ているドラマ『隣の家族は青く見える』の主題歌のMr.Children『here comes my love』だ。chuckさんが見つめているのは写真に映ったヤシュウさんの顔だ。そして、時を同じくして家のベッドに横たわって同じようにスマホの画面を見つめているヤシュウさんがいる。スマホの画面には、同じように二人が並んだ写真を映っている。(拾い集めた淡い希望も 〜♪ 一度ゴミ箱に捨てて〜♪)とバックの音楽が流れる。ヤシュウさんが見つめているのは写真に映ったchuckさんの顔だ。そして二人が感じるのは、あの夜に抱きしめあった時の相手の体温……

「ぐへへへ……ヤシュチャク堪らんぜよ! 美味ぜよ! コミケでBL本を大量販売ぜよ! 100万部突破ぜよ!」。よだれが垂れそうなくらいに破顔しつつもボクのBL妄想は、もはや誰にも止められない。

「すみません!」

「そうそう……chuckさんとヤシュウさん。すみません!」「えっ?すみません?」。急に誰から声をかけられて、妄想世界から現実世界に引き戻された。

 ボクはニヤニヤしたマヌケな顔のまま声をかけてきた人の顔を見た。さっき隣の席に座っていた男性が、申し訳なさそうに頭を下げながら話しかけてきたのだ。

「すみません。ちょっといいですか?」
「はぁ?」
 
<中編-2に続く>

この文章は自分でも書いていて過去最凶に酷い文だと思う。そしてこの文章を書き終わった、まさに今……ゲイブログLINEの招待メールがchuckさんから送られて来て震えている。やっぱりchuckさんは凄い!何もかもボクの行動を見透かしていると恐れおののいている。この文章を読んだらグループに入れなくなるんじゃないだろうか……orz>