ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています@福岡

遠い場所の君へ<2>

 工藤慎太郎さんは音の調整中に突然に歌い出した『なごり雪』で、会場の全体の空気を掴んでしまった。それから開始時間が来ると再びステージに上がって歌い始めた。福岡空港でのタイヤパンクの影響で成田空港から出発する予定の飛行機は欠航してしまって、飛行機での移動は断念して新幹線に変更して福岡までやってきたと説明があった。

『声をなくしても』『Film』という曲を続けて歌ってからMCに入った。

「数多くの失恋をしてきました。もう一曲だけ失恋の曲を歌いたいと思います。これは高校生の時に作った曲です。聴いてください。『遠い場所の君へ』という曲です」

 そう言って『遠い場所の君へ』という曲を弾き語りで歌い始めた。

 ボクの心の中に密かに秘めていたんだけど、ここで明かしておきます。

 このブログを書く上で、2つほどテーマにしている曲がある。恥ずかしくて、自分の心の中にだけで勝手に思っていた曲がある。

 一つは中島みゆきさんの『はじめまして』という曲。

シカタナイ シカタナイ
そんなことばを覚えるために生まれて来たの
少しだけ 少しだけ 私のことを愛せる人もいると思いたい
はじめまして 明日 はじめまして 明日
あんたと一度 つきあわせてよ

 過去を引きずりながらも、過去を振り払って前向きに生きようとする歌詞の内容と、明るい未来を感じさせる曲調が好きだ(セルフカバーしたアルバム『いまのきもち』の方が好きです)。

 そしてもう一つが工藤慎太郎さんの『遠い場所の君へ』という曲だった。過去を引きずりながらも、その過去を振り払わずに寄り添って一緒に生きようとする歌詞の内容としっとりとした曲調が好きだ。

 ボクが文章を書くコンセプトはこの2つの曲に集約されている。この2つの曲をこのサイトのテーマ曲に決めていた。

 ボクは中学時代や高校時代の思い出を文章に書いている時に、ひたすら『遠い場所の君へ』という曲をリピートしていた。自分から振り返りたい素敵な過去があった。自分からは振り返りたくない辛い過去もあった。そんな時に、この曲を拠り所にして過去と向き合いながら文章を書いていた。

 彼はアルバムの3枚は発売しているし、ミニアルバムも何枚か発売している。この曲はデビューアルバムの一曲目に収録されている。特にシングルカットされたわけではない曲だったから、このライブで歌ってくれることはないだろうと諦めていた。期待していて歌ってくれなかったら失望は計り知れないから、あえて希望は持たないようにしていた。でも……心のどこかではずっと期待していた。その曲を歌ってくれた。

君から出された最後の手紙 何度も捨てようと思ったけど
僕はそのたび拾い上げて 君のこと思い出す
まぶたの裏に住みついたままの 笑顔や横顔出て行かない
もしもあの子が側にいたなら こんな僕を笑うのでしょう
ー略ー
君の思い出には僕はいますか 幸せでいますか
離れ離れ今でも歌を唄うよ 遠い場所の君へと

 

 この歌を聴きながら文章を書くことで、ボクは自分の過去を振り返ることができた。

 

 歌詞の中の「君の思い出には僕はいますか 幸せでいますか」という箇所が好きだ。「君の思い出には僕はいますか」で少し言葉が切れて、「幸せでいますか?」と質問しているから歌詞の解釈の幅が広まってしまう。歌い方も一旦言葉を切ってから歌っている。

「幸せでいますか?」

 「誰が」幸せでいますか?と尋ねているんだろう。

「君は幸せでいますか?」と「君の中の僕は幸せでいますか?」と、両方の意味で解釈ができてしまって不思議な感じがしている。「君の思い出には僕はいますか」という歌詞を含めて解釈すると、時間的にも幅が広まって「過去」と「現在」の「君もしくは、君の中の僕は幸せでいますか?」と尋ねているようにも解釈できる。そんな謎々のような解釈ができる点も好きだった。
 
 ボクはその曲の優しい歌声と音色に包まれて、

「この1年間、毎日文章を書き続けてきてよく頑張ったね。これはご褒美だよ」

 そう言って自分の頭をやさしく撫でてもらっているように感じた。

 そしてライブが終わった後、このライブに来た「もう一つの目的」を果たすために、工藤慎太郎さんに近づいた。先に話しかけていた女性と話していて、ボクは話が終わるのを待ってから声をかけた。

<つづく>