人見知りゲイの異常生活<後編>

 話はバス待ちをしていた少年と出会った冒頭に戻る。

 ボクはバス待ちの少年と出会った翌々日(翌日は春分の日で休みだった)もいつもと同じように、同じ時間に仕事場に向かって出勤した。歩きながらふと前を見ると、あの少年と出会ったバス停が眼前とそびえ立っていた。周囲を見渡してみても、あの少年の姿はどこにも見当たらなかった。そしてボクはあることに思い至った。

 ははん。そうか……分かった。やっぱりあの少年はボクのことが好きなんだな。

 今もどこかの建物の影から通勤姿のボクを盗み見しているに違いない。きっと時刻を訊いたのも、ボクに話しかける口実が欲しかっただけで、本当はボクに告白する前の事前準備だったに違いない。なんて用意周到なマセた少年なんだろう。きっとあの少年の老練な魔の手にかかれば、純粋無垢で清純派タレントのようにウブなボクの心は、ただ翻弄されるだけだろう。「あの年上の男性って……年下相手にも丁寧語で話して素敵。朝から中島みゆきを聴いてるなんて渋くて素敵」。そうトキメいているに違いない。きっと小学校でクラスの同級生に、「俺…最近さ。通学途中に出会う年上の男性が好きみたいでさ…あの人イケメンで性格もイケてて超たまんねよ。もうあの人に首ったけでさ。超好きでたまんね。四六時中あの人のことしか考えられなくて、あの人でヌいちゃったよ。もうあの人なしじゃ生きていけないぜ」なんてカミングアウトしてるんだろうな……もうしょうがないな、こうなったらボクも彼の愛を受け入れてあげるしかないじゃないか。この際、あの少年に弄ばれても仕方がないじゃないか。

 一瞬のうちに、そんな妄想を組みててしまった。もはや……人類にとって死滅すべき存在である。死体もブラックホールに投げ捨てて汚物処理したほうがいいのかもしれない。

 ボクはそんなことを思いながら、前日の醜態をとっくに忘れて去って、どこかで少年が見てていると意識しながら、すました顔をして颯爽と歩いた。エリートサラリーマン。仕事ができるサラリーマン。そんな自分の姿を意識しながら。

 そんな愚かな妄想の真っ最中に、スマホの着信音が鳴った。立ち止まってポケットからスマホを取り出して確認すると、LINEアプリの着信通知が表示されていた。画面には「招待しますね」というchuckさんからのメッセージが表示されていた。ボクは自分の馬鹿な脳内妄想が、chuckさんにハッキングされているのではないか?と心配になって、自分の脳内に設定されているファイアーウォールが動作しているのか確認した。ボクの脳内のあらゆるポートは全て開き放しだった。だからいつもニヤニヤしながら歩いているのかもしれない。だから見知らぬ人からよく声をかけられるのかもしれない。ボクは急いでポートを閉じて、chuckさんからの不正アクセスに対応した。埋め込まれたトロイの木馬も全て削除した。脳内OSをアップデートして最新のセキュリティパッチもあてた。そして真面目な顔に戻って道を歩きだした。

 そうボクはこの日、ゲイブログのLINEグループに参加した。

 このLINEグループに入った目的は一つだ。

 それは「国家機密」以上の機密事項だ。もはや「宇宙機密」という言葉で表現するべきかもしれない。もしハッキングしようものなら宇宙刑事ギャバンが抹殺に向かうだろう。あまりにも崇高で高尚すぎる参加目的だから、きっとゲイブログ仲間にも理解してもらえないと思う。この意識高い系の目的を知られてしまうと、ゲイブログ仲間といえどもただと愕然と立ち尽くしてしまうだろう。ボクの目的を心の底から理解できる人がいるとすれば、きっと同じくはてなでゲイブログを書いているtakatoさんくらいだ。

 誰も触れないけど、LINE上の4月上旬に開催されるゲイブログオフ会の参加者アンケートに、「chuck:○ ヤシュウ:○」と記載されていることに触れるような、そんな野暮なことをしてはいけない。アンケートを眺めながら、二人の回答欄に○がついているのを見てニヤニヤするような野暮なことをしてはいけない。決して「ヤシュチャクキター」なんて、LINE上に書き込むような野暮なことをしてはいけない。「ヤシュチャク初対面ですね!」なんて、LINE上に書き込んむような野暮なこともしてはいけない。二人を見守るためにオフ会にスパイを送り込むような野暮なことをしてはいけない。あくまでそっと影から二人を見守るべきなのだ。星飛馬の特訓を影から見守る星明子のように涙を流しながらそっと見守るべきなのだ。そして韓流ドラマの純愛に涙するおばちゃん達のように、ヤシュチャクの純愛を目にして、ただ落涙すべきなのだ。

 そうボクは…あくまでゲイブログLINE上では寡黙な存在でありつづけようと思っている(既に空気が読めない投稿をして失敗している気がするけど)。宇宙機密を守るためにも。ゲイブログ仲間が宇宙刑事ギャバンに抹殺されないように守るためにも。ゲイブログLINEが平和な毎日を迎えるためにもだ。

 以上で、この妄想ばかりの文章を終わらせようと思う。

 重たい文章ばかり書いているので、たまには軽い文章を書いてみます。

 そんなことを冒頭に書いたけど、なんだか失敗したような気がする。まぁ…それもいい。
 
 ただ最後に一点ほど訂正させていただきたい。

 今回の文章のタイトルを『人見知りゲイの異常生活』としたけど、『人見知りゲイの日常生活』と訂正する。だってボクは日常生活において、いつもこんな愚かで馬鹿な妄想ばかりしてるからね。

<終わり>