LGBTの社会活動との関わり<8>

 ボクは「創作」で文章を書いてみたい。

 さっきも書いたけど、ボクはゲイに生まれて悲観ばかりしてないし、ゲイで生まれてよかったとも思っている。ボク以外のゲイの人にも、ゲイで生まれたからと言って後悔してほしくないと思っている。そして恥ずかしいけれど、ゲイの人たちに希望を与えるような文章を書きたいと思っている。現実のボクが「そんなことを言える立場なのか?」と問われればそうではない。そう……だから「創作」という場でなら、そんな文章を書くことが可能だと思う。今書いている文章は、ほとんどエッセーに近くてフィクションではなくノンフィクションでは近い状態だ。実際にボクに起こった出来事を中心に書いていて、共感はできても希望のような明るい何かをゲイの当事者に与えることはできないと思っている。

 「創作」でなら自分が書きたい文章を書くことができると思っている。

 そして「創作」で書く話を、ゲイでない非当事者にも読んでもらいたい。

 このサイトで何度か取り上げているけど、田亀源五郎さんの『ゲイ・カルチャー未来へ』という本の中で、以下のようなくだりがあった(P.223)。

 とはいえ最近は日本でも、ゲイであることをオープンにしている漫画家さんや、ゲイがテーマのエッセイ漫画などもじょじょに増えてきているので、こういうのがどんどん増えると面白いなと思います。ただ、ひとつ欲を言えば、体験談やエッセイではなく、それをフィクションでやってほしい。というのも、エッセイもそれはそれで素晴らしいのだけれど、いい部分と悪い部分があって、いい部分はそれが現実のものだという訴求力を持っていること。ただその反面、そういう特殊な人がいるということで終わってしまう可能性もあるんですね。たとえばゲイの方のエッセイを読んだとき、「この人はこういう風に感じるんだな」ということは伝わるんですが、「私の身内や身近にこういう人がいるかもしれない」とは想像されづらいように思うのです。せっかくヘテロ向けのフィールドでゲイものを発表するんだったら、それを「特殊な人の特殊な話」で終わらせてしまっては、もったいないと思うんですよ。私がフィクションにこだわりたいのは、フィクションは自分に引き寄せて見ることができるからです。

 このくだりは次のページにも続いていくけど省略する。

フィクションは自分に引き寄せて見ることができるからです。

 ボクは田亀さんが書いたこの文章を読んだ時、「そんなものなのかな?」と半信半疑だった。そもそもこのサイトを始めるきっかけになった、石川大我さんが書いた『ボクの彼氏はどこにいる?』という本はエッセイでノンフィクションに近かった。それでも十分に自分に引き寄せて読むことができたからだ。

 でも先月、ある本を読んでから考えが変わってしまった。

 その本は、浅原ナオトさんの『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』だ。

 

 この本に出会ってから、無性に「創作」で文章を書いてみたくなった。

 

 ボクはこの小説の主人公の「安藤純」と、自分を重ね合わせながら読んでしまった。いつも小説を読む時は、主人公や登場人物と自分を重ね合わせて読んでしまうけど、主人公がゲイだったためなのか、いつもより激しく重ね合わせて読んでしまった。そして読み終わった後、田亀さんが言いたいことが今更になって実感できた。

 なぜ「ノンフィクション」より「フィクション」で書いた方が訴求力があるのか?

 それはゲイでない非当事者が読んでも、自分がゲイの主人公の立場と重ね合わせて読むことができるから。

 さっきも書いたけど、「LGBT」の人たちを「差別」しないで。「いじめ」ないでと言う資格はボクにはない。でも「創作」という架空の舞台を借りれば、言う資格が持てるかもしれない。「創作」という架空の舞台を借りれば、押し付けがましく強要することなく、そっと読む人の心に語りかけることができるかもしれないと思った。文章を読む人がゲイの当事者の立場になって文章を読むことが可能かもしれないと思った。

 そうすれば……パレードとは違った何かを社会まではいかなくても、読んでくれた誰かに影響を与えることができるのだはないだろうか?

 ボクはパレードの参加者の側を、横目で通り過ぎていく人たちを見てそう思っていた。

 それにボクにはこのサイトに書けない話が、まだまだ沢山ある。なぜ書けないのかというと、その話を書いて身近な人が読んでしまったら、ボクが誰なのか100パーセント近い確率でバレてしまうからだ。書きたいことがあるのに書けないという悶々とした気持ちを抱えていたけど、年齢も場所も変えて、さらに少し内容を変えて「創作」という舞台を借りれば、書くことができると思った。

 今はメモ帳に走り書きしている段階だけど、いつかこのサイトで創作の話を書いていきたいと思っている。

<つづく>