LGBTシンポジウム参加レポ<10>

ーーーパネルディスカッションの続き

●福岡県弁護士会 LGBT小委員会 LGBT小委員長 石田光史氏

 そもそも「弁護士会」というものがどんなものなのか、あまり知られていないと思いますので、少し説明させて下さい。よく「医師会とどう違うのか?」と言われるのですが、医師会というのは任意団体です。お医者さんが全員入っている訳ではありません。でも弁護士会は強制加入団体です。弁護士であれば必ず弁護士会に所属しています。東京だけ例外で3つありますが、基本的には各都道府県に1つづつあります。福岡県にあるのは「福岡県弁護士会」になります。現在、大体1300人くらい福岡県弁護士会に所属している弁護士がいます。弁護士は日々いろいろな仕事をしておりまして、離婚の相談や相続の相談を受けることもあります、交通事故の相談を受けることもあります。企業から取引の紛争の相談を受けることもあります。そういった日常業務をやっております。

 そういった日常業務とは別に弁護士会としていろいろな活動を行なっております。「弁護士法」という法律がありまして、その第一条に、

 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とします(弁護士法1条1項)

 と記載されています。法律上で「正義」という言葉が出てくるのは珍しいです。「弁護士はそういうことをしないさい」と法律に書かれております。その法律に基づいて、日々の日常業務とは別に弁護士会としていろいろな活動を行なっています。福岡県弁護士会では大体60くらい委員会があって、いろんな問題に取り組んでいます。その中では、罪を犯した人の刑事弁護をどのようにやって質を高めていこうかと考えている委員会もあります。逆に犯罪被害に遭ってしまった人の支援をどうしようかと考えている委員会もあります。各委員会では、子どもの権利の問題だとか、男女差別の問題だとか、社会問題や人権問題にいろいろ取り組んでいます。私は弁護士になって18年になりますが、いろんな委員会に関わってきました。一貫してやってきたのが、消費者被害だとか子どもの権利などの委員会に所属して活動をしてきました。

 今回のシンポジウムは、LGBTなどの性的マイノリティをテーマにしていますが、それに関わるきっかけになったのが、西日本新聞の生活欄に毎週弁護士がQ&Aで対応する法律相談コーナーがあります。その担当を私がしていました。その西日本新聞の生活欄は特徴があって、多くの寄稿や連載で成り立っています。その中の一つが福岡県弁護士会に法律相談コーナーだったんですが、その生活欄に寄稿している執筆者が集まって懇親を深める機会を2014年の年末に設けていただきました。せっかくの機会なのでいろいろな人と話をしたいと思って、一週間分の新聞をめくってどういう方がどういう内容を書いているのかチェックしていきました。その中で、先ほど登壇された、五十嵐ゆりさんが当時は「小嵒ローマ」というペンネームで「虹色のあした」という連載をされていました。この方と是非お話をしたいと思って、西日本新聞の方の仲介で、その懇親会に行ってお話をすることができました。

 先ほど、弁護士会でいろいろな取り組みをしていると説明をしましたが、ふと思ってみるとLGBTに関する問題について、弁護士会で取り組んでいる委員会がないことに気づきました。男女差別や男女共同参画に関する取り組みはありますが、いわゆる性的マイノリティという問題の取り組みついては、東京や大阪では先進的にやっていたのですが、福岡県では聞いたことがありませんでした。これはいけないと思いまして、有志の弁護士に声をかけて当事者団体の方と勉強会をしたり、東京から弁護士を読んで勉強会に参加してもらったり、そういった活動を始めていきました。

 そういう活動をする中で思ったのが、当たり前のことなんですが、LGBTの当事者は、普通に社会の中で生きてる方々なので、刑事弁護の刑事被告人の中にも性的マイノリティの方はいるし、被害にあった方にも性的マイノリティの方はいます。我々が取り組んできた問題の中に、今までは見えなかった、あるいは見る気がなかっただけで、必ずその問題が含まれてるんだということに気がつきまして、一緒に取り組んでくれる弁護士の仲間を少しづつ集めまして、2015年の8月に正式に弁護士会内で「 LGBT小委員会」をいう組織を作ってもらいました。これによって弁護士会としてきちんと位置付けてもらい取り組みをしていけるようになりました。

 どんなことをやっているのかというと、あたり前で恥ずかしい話ですが、とても重要だと思っているのが「( 弁護士)会内研修」です。「弁護士がLGBTの問題に取り組みます」と外に向かって偉そうに言うのは簡単ですが、我々1300人いる弁護士が、皆んなこの問題に詳しくて理解があるのかと言うと残念ながら、そんなことはない状態です。「こういう問題があるんですよ」「あなたの依頼者にもいるんですよ」ということを、まずは分かってもらって理解を深めてもらわなくてはいけませんので、会内研修に力を入れております。対外的にはシンポジウムをやっています。去年の10月に制服の問題についてシンポジウムを行いました。200人の会場が学校関係者や父兄の方などが来て、ほぼ満杯の状態でした。先ほど登壇された三浦さんが説明された、レインボープライドにも去年と一昨年にブースを出しまして無料法律相談をやりました。場所柄の問題もあって店舗に幕を張っただけなので、深刻な相談は難しいと思いますが、気軽に問題になっていること相談できるようなブースを出しました。

 それから電話相談については、去年の9月から月に1回だけですが弁護士会の方で無料電話相談を始めました。それと合わせて福岡市の方とパートナーシップ制度の策定のお手伝いをしてきました。そして手元に配布していますが、今年の4月から福岡市と共催で無料電話相談をさせていただくことになりました。

 

 今後は相談体制の充実をテーマに、我々の方がもっと力をつけていかなくてはいけないと思っています。もう少し広い範囲で対話ができるような弁護士会内での人員拡充が必要ですが、単に人を増やすだけでなく、例えばLGBTの方にとっては災害時における問題が多数あって、それは平時に準備をしておかないと対応が難しいので、弁護士会には災害問題に取り組む委員会があるので、そこから人を呼んだりして対応できる分野を広げていきたいと思っています。

 一点、頼もしいと思っていることがあります。新しく入ってくる弁護士は最初からLGBTの問題を知ってるんですね。去年入ってきた弁護士は、学生の頃から、性的マイノリティの支援に取り組んできたと言っています。1月から弁護士になった人には、「知人に性的マイノリティの人がいるので、弁護士になったらこの問題をしたいと思っていました」と言って仲間に加わってくれました。彼らを頼もしく思っていて、次の世代は彼らが担っていくことになるんだろうなと思っています。ただ、まだまだ我々もやるべきことがありますので頑張ってやっていきたいと思います。

<つづく>