あっ……ヤバイ。Mugenさんの目つきが怪しくなってる。
なんとなく彼の次の言葉が想像できた。
「よかったらヤらない?」
やっぱり予想通りにMugenさんは誘って来た。
正直に言うと……ボクはこの時Mugenさんのことが怖かった。
彼はボクよりもずっと体格が良かったし、押さえつけられたら抵抗しても逃げることができないように思えた。深夜遅く体育館の裏のような場所だったから、声を上げて助けを呼んでも誰も来てくれそうになかった。
「すみません……やっぱり気分が乗らないです」
ボクは前回と同じように正直に自分の気持ちを伝えて断った。Mugenさんなら理解してくれると思った。
「ボクは体格がいい人は、ちょっと苦手なんです。カッコいいとか思うよりも、なんだか怖い気がしてしまって……」
「そうか。残念だなー」
彼は悔しそうに笑って全く別の話を始めた。ボクは彼が諦めてくれて、内心でホッとしていた。Mugenさんはいつもの優しい笑顔に戻っていた。
それからしばらくして、ボクらは西●極の方に戻った。そして西●極の入り口で雑談をした。Mugenさんと話すのは楽しかった。ゲイであることを隠す必要もないし、ボクよりもはるかにゲイとして色々な体験をしているので、面白い話が沢山聞けた。
「これからどうするの? こっちはトイレの方に行くけど?」
ボクの方はもう一回、全裸の男性を見たいとは思わなかった。
「ボクはもう帰ります」
「そっか……じゃあまた機会があったら会おうね」
「そうですね。またどこかの野外のハッテン場でお会いしましょう」
ボクらは手を振って別れた。
その後もMugenさんとメールのやり取りは続けた。でも直接会ったのは、これが最後だった。ボクはMugenさんと西●極で再会したのを最後に、野外のハッテン場巡りを卒業してしまった。
もう京都市内の野外のハッテン場は大体巡り歩き終わっていた。たまたま飲み会などの帰り道に、野外のハッテン場に立ち寄ったことはある。でも野外のハッテン場では、ボクが求めているような物が得られないことが分かっていた。それにボクには野外のハッテン場に行って、肉体関係を持つことができない理由があった。どうしても頭の中にこびりついて離れない物があった。
Mugenさん……あなたの作ったサイトは、ボクにとって師匠のような存在でした。あの日、●都●所に行って、Mugenさんと出会えてよかったです。
大学時代、ボクはあなたのホームページを辿って多くのゲイ仲間と出会いました。その多くのゲイ仲間が、あなたのホームページの存在を知っていました。ボクと同じように、あなたの作ってくれたホームページを見て、ゲイの世界にデビューした人もいました。ボクも期待に胸を膨らませて、あなたの案内に導かれて「ゲイの世界」に踏み出しました。
でも……残念ながら、ボクの望むような世界ではなかったです。
ただ、ハッテン場のような世界を知ることができて後悔はしていません。あなたのサイトに出会ってから、15年近くが経ちました。ボクは35歳を過ぎて、ようやくあなたに導かれて入った「ゲイの世界」を抜け出そうとしています。もっと別の「ゲイの世界」がないのか探し始めました。
<つづく>