ゲイ集う成人映画館の手記<10>

 ボクは真冬の京都市内を歩いていた。

 向かう先は「ゲイの人たちが集う成人映画館」だった。

 片道50分はかかると思われたけど、なぜか歩いて向かっていた。寒すぎて原付に乗る気分にもならなかったのかもしれない。それにしてもバスという選択肢もあると思うのだが、ただ有り余る性欲を発散させるために「歩く」ことを選んだ気もする。

 千本通に向かっている途中で、雪がチラついてきた。

 それにしても「性欲」は凄い。

 ボクの頭の中は、体験談の内容が反芻していて、体は寒いはずなのに心の中は熱かった。もはや性欲の塊のような状態だった。

 そんな情熱があるのなら、「もっと別のことに力を使えばよかった」と振り返って思う。

 京都市内は碁盤の目のようになっている。大学を卒業してから10年以上も経つけど、今だに通りの名前を覚えている。大学時代は、真面目に授業に出たことがなかった。課外活動ばかりしていたから、毎日のように京都市内をいったりきたりしていた。

 まずは「千本日活」に向かうことにした。

「下町者通」を沿って横に歩いて、「千本通」に出てから、北に向かって歩いて「上町者通」で左に曲がった。

 目の先は、何か薄気味悪い建物があった。

 その建物に近づくにつれて、徐々に商店街の喧騒は無くなっていた。そして周囲の建物も住宅に変わっていった。

 ボクは薄気味悪い建物の前に立って看板を見た。

「千本日活」と大きく書かれていた。

 何階建なのかも分からないような不思議なコンクリートの建物だった。駐輪場には、自転車や原付が何台か停まっていた。正面にはガラスのドアがあった。目を凝らして中を見たけど、受付のようなものが見えた気がするけど、よく見えなかった。

 この建物の中で、あの体験談に書かれた淫らな出来事が繰り広げられているのか……
 
 映画館の前に立って、再び妄想を始めて興奮していた。ふと建物の駐輪場前にある看板に目が向いた。「上映中の映画」の案内のポスターが貼られていた。それに「次に上映する映画」の案内のポスターが貼られていた。

 あれっ……なんか想像してたのと違う?

 映画の案内ポスターを見ると、「ノンケ向けのアダルトビデオ」のパッケージに出てくるような「AV女優」の姿があった。

 映画の内容自体は……普通のノンケ向けなのかな?

「千本日活」は住宅街に忽然と鎮座している。ボクの立つ10メートルくらい離れた民家の玄関を、おばあちゃんが箒で掃いていた。そのおばあちゃんからの視線が痛かったので、「あまり長居できない」と思った。それにしても家に近くに成人映画館があるなんて、いい気分じゃないだろうなと思った。
  
 ボクは興味がなさそうに映画館の周辺を何度か歩いた。そして「どちらに入るのかはもう一軒の成人映画館を見てからにしよう」と決めた。

 それから「千本通」に戻って、歩いて5分くらい離れた場所に向かった。

 次に向かうのは「シネ・フレンズ」だった。

 しばらく歩いて「シネ・フレンズ」の前に立った。さっきの「千本日活」に比べて小さな映画館だった。それに商店街の脇道のような場所にあった。近くには飲み屋や料理屋が目について騒がしかった。

 ただボクはもっと重要な相違点に気がついた。

「千本日活」と同じように「シネ・フレンズ」の方も、上映中の映画のポスターが貼られていた。ただ、映画の案内ポスターは「ゲイ向けのアダルトビデオ」のパッケージに似たものだった。それにゲイ向けのイベントの案内告知のポスターも貼られていた

 こっちは「ホモ専用の映画館」だった。

 ボクがどちらの映画館に入るべきなのか確定した。

<つづく>