一人のホモが満員電車で思ったこと<起編>

 本を読んでいると、目の前に『星のカービィ』が現れた。

 一昨日、福岡天神で落語を観てきた。その帰り道に満員電車で起こったこと。思ったこと。について書くことにする。 

 ボクが見た『星のカービィ』が何だったのかというと、女性がつけたイヤリングだ。

 どんな状況なのか簡単に説明をすると、隣に座っている女性がウトウトしてボクの肩にもたれてきた。

 まぁ……電車で隣席の人が居眠りして、肩にもたれかかってくることなんてよくある出来事だ。

 ボクは隣を一瞥して、気にも止めず肩を貸したまま本を読み続けた。

 そして数分後。

 ボクの肩にもたれていた女性は肩からずり落ちて、腕を伝って膝枕すれすれまでずり落ちてきた。腕をあげて本を読み続けてようとしたけど、集中して本を読み続けるのは不可能だった。その時になって、ボクは初めて隣に座っている女性を姿を確認した。

 星のカービィのイヤリングをつけていた。カバンにも星のカービィがプリントされていた。そのカバンにも星のカービィーのキーホルダーが沢山ついていた。着ている服もピンクで統一されていてジャージを履いていた。

 どうやらピンク色が好きな女性のようだった。20代。いやもしかしたら高校生くらいだった。

 少し体を揺すってみたけど、目を覚ます気配がなかった。

 これは困った事態になったな……

 仕方がないので本を鞄の中にしまって、片手でスマホを眺めて時間を潰していた。もたれかかっていた女性は右隣に座っていた。ボクの左隣に座っているのも女性だった。左隣の女性もウトウトしていたけど、こちらはもたれかかってくる気配はなかった。席を立とうかと思ったけど、膝枕状態の女性は起きる気配がなくてタイミングがつかめなかった。

 別に電車の中でウトウトして肩にもたれかかられることが嫌ではない。

 あぁ……この人は疲れてるんだろうな。

 眠気と戦いながらウトウトしている顔を見ていると微笑ましくなってくる。ただ最近は世相が変わってきている。

 特に若い女性とは体を接触しないように心がけている。

「この人に体を触れらました」

 そう言われたらめんどくさいことになるからだ。ボクの肩どころか、ずり落ちて膝枕にまで達している女性が、急に目覚めて「この人から体を触れました」と言われたら、「やっていません」と慌てて抗議しても、次の駅で降りて警察官との話し合いは免れないと思う。

 ボクは近くに立っているサラリーマンたちに視線を合わせた。

 うわー。これは激しくもたれかかられてて困るよね。君が今何を考えてるのか分かるよ。

 そう同情の眼差しを送ってきた。ボクは目を合わせて迷惑そうな顔をして「そうなんです。困ってるんです」とアリバイづくりをしていた。もし痴漢扱いされたら、きっと彼らが擁護してくれるだろうと思った。

 ボクは根っからのホモだ。

 だから若い女性が持たれかかってきても全く性欲は感じない。

 大学時代にレンタルビデオでアルバイトをしていた。ノンケ向けのアダルトビデオのシリーズに「痴漢電車」というものがあって、「ノンケの人たちは電車みたいなシュチュエーションのどこがいいのだろう?」と思って、笑いながら返却されたビデオをパッケージに戻していた。しばらくしてゲイの世界に足を踏み出して、ゲイ向けのアダルトビデオでも、「電車」や「バス」で痴漢プレイのシリーズがあるのを知った。「なんだノンケもゲイも変わらないんだな」と微笑んでしまった。

 きっとこういうビデオを見る人は、多くの人の前でヤると性欲が燃えるタイプの人なんだろうな……

 ただボクはそういったことに全く興味がなかった。電車というシュチュエーションだけで萎えてしまう。

 ボクは彼女の耳元で揺れている、星のカービィのイヤリングを見ながら考えていた。

 もし彼女から痴漢扱いされたとして、ボクが「ホモ」だということを証明できたら解放してくれるんだろうか?

<続く>