一人のホモが満員電車で思ったこと<承編>

 この膝枕状態が、女性じゃなくて男性だったらよかったのに……

 ボクは目の前の女性を男性に置き換えてみようとした。

 誰がいいだろう? そうだ。先日会った「たぬ吉さん」に置き換えてみよう。

 膝枕の女性の寝顔を、たぬ吉さんのイケメンで可愛い寝顔に置き換えてみた……置き換えてみた……置き換えてみた。

 いやいや……女性を男性に置き換えるのは、どう考えても無理がある!

 彼女の耳元ではカービィが嘲笑うかのようにボクを見ていた。
 
 それにしても見知らぬ男性の膝枕で寝続けるとは、かなり豪胆な女性だ。さっき痴漢対策のアリバイ作りのために目を合わせたサラリーマンたちは、みんな途中の駅で降りていった。彼女も何度か目を覚まして起き上ったけど、数秒後には再び肩にもたれて腕を伝って、膝枕ぐらいまでずり落ちてきた。よほど眠たいのだろう。

 どうせ痴漢に間違われるのなら、ホモらしく男性に痴漢したと間違われたい。

 ホモにだってプライドはある。その方が余程、冤罪で痴漢扱いされても納得がいくと思った。

 自分の膝枕で女性が寝ているという現実に徐々に耐えられなくなった。そしていつものように妄想の世界に逃げこむことにした。

 以下、妄想開始。

「止めてください。この人に体を触れました!」

 膝枕で寝ていた女性は急に起き上がって叫んだ。ボクは否定したけど誰も擁護してくれる人はいなくて、次の駅で降ろされて部屋につれていかれた。女性が被害を訴えている。彼女の耳元ではカービィが嘲笑うかのようにボクを見ていた。

「絶対に触ってないです!」

 否定の言葉は空しく響いた。誰も訴えを聞いてくれない。

 彼女を触っていないと、どうしたら信じてくれるだろう? そもそもボクは女性に興味がないのに…こうなったら仕方がない……

 ホモだとカミングアウトするしかない!

「あの…ボクってホモなんです」

 シーンと静まり返る室内。

「本当に……ホモなの?」

 恐る恐る駅員が訊いてくる。

「そうです。見て下さい。ホモのブログも書いてます」

 ボクはドヤ顔でスマホを取りし出してブログの管理画面を駅員や女性に見せる。スマホを覗き込む人たち。彼らの顔が内容を見るにつれてみるみる青ざめていく。

「すみません。まさかあなたがホモだったなんて……」

 彼女は申し訳なさそうに、そして気の毒そうな目でボクを見ている。彼女の耳元ではカービィが嘲笑うかのようにボクを見ていた。

「な~んだ。君もホモならホモって早く言わないといけないじゃないか」

 駅員はホモなんて気にするなよという感じで明るく声をかけてきた。
 
「すみません。今度からすぐにホモだと名乗るようにします」
 
 ボクはテヘペロという感じで頭を下げた。そして部屋の中では「なんだホモなら女性に痴漢しないよね」と笑いの渦が起こった。

 以上、妄想終了。

 よし! ホモとカミングアウトすれば痴漢容疑をかけらても逃げ切れる。

 そんな全く根拠のない妄想をして自信を持つことにした。

 ただ妄想から現実に戻ると、相変わらず彼女はボクにもたれかかって寝ていた。彼女の耳元ではカービィが嘲笑うかのようにボクを見ていた。

 だから再び妄想の世界に逃げこむことにした。
 
 <つづく>

 すみません…もの凄く酷い内容になってしまって。ただ以前から電車に乗るたびに同じようなことを考えていて書きたかった内容なんです。