東京レインボープライド2018(これから先に起こること編)

 あらかた出展ブースを回り終えた後、代々木公園から出ることにした。

 明日も来る予定だったから、これで1日目は引き上げようと思っていた。それに昨日からほとんど寝ていなかったから眠くなってフラフラしていた。

 代々木公園の隣にあるフットサル競技場ではFC東京の選手たちが練習をしていた。前を歩いているゲイの3人組が、「あの人はイケメンじゃない?」「隣の方がイケメンだと思う」「サッカーユニフォームいいよね」「ユニフェチになりそう」とFC東京の選手を見ながら討論していた。彼らの会話を耳を澄まして聴きながら、彼らがイケメンと言っている選手たちの顔を、そっと見ていた。そして、

「いやいや……あの選手たちより、昨日会った『たぬ吉さん』の方が断然イケメンだって!」

 と、頭の中で不毛なクレームをつけていた。

 そんな子供みたいなクレームをつけている時。スマホ画面にコメント通知が表示がされた。福岡に住んでいる男性からコメントが投稿されていた。

あ!テンガ!使ったことないけど興味あるあるw
レインボーテンガ置いてたらインテリになりそうだから欲しいw

 twitter上に投稿したテンガブースの写真を見ての反応だった。

 全くしょうがないな……ボクも子供みたいクレームを入れてるけど彼のコメントも似たようなものだな。

 彼からの子供みたいなコメントを読んで苦笑してしまった。

 ボクは彼のコメントを読んで立ち止まった。そして反射的に歩く向きを変えて代々木公園に戻りはじめた。公園に戻ってから一直線にテンガの出展ブースに向かった。そしてレインボー色のカップを手にとって店員に声をかけた。

買いましたよ(キリっ 笑
使わないなら僕が使います(笑

 スマホを取り出して彼に返信のメッセージを送った。

 5月21日。まさに今日。ボクはそのレインボー色のカップを渡す人と初めて会うことになっている。

 この記事が公開されたタイミングが彼との待ち合わせ時間。この文章をみんなが読んでいる時、ボクはその人と会って話している真っ最中。

 はっきりと意識はしていなかったけど、きっと反射的に代々木公園に戻ろうとした瞬間に彼と会うと決めていたんだと思う。その日の夜に、新宿二丁目で彼とメッセージのやりとりしながら、強引に会う日程を決めてしまったんだから。それにしてもレインボー色のカップをプレゼントなんて、本当に子供みたいだなと思う。でもお互いに子供みたいな面があるかないいかな。そんな子供じみたプレゼントを渡すという状況にでもしないと彼と会う勇気が持てなかった自分のことは情けないとつくづく思う。でも彼が少しでも喜んでくれたら嬉しい。

 最終日。帰りの山手線の電車に乗って、ずっと考えていた。

 東京に来た初日の夜。ボクはたぬ吉さんと会ったことで東京に来た目的の全てを達していたと思う。東京レインボープライドのイベントですら、ボーナストラックぐらいの物でしかなかった。福岡の彼と出会うための後押しをしてくれたのは、他でもないたぬ吉さんとの出会いだった。

 このサイトで文章を書き続けていれば、いつかは踏み出さないといけない一歩だった。たぬ吉さんはその一歩を踏み出す勇気をくれた。

 このサイトを通して初めて福岡で会うゲイ仲間。

 彼はこのサイトを読んでるから、ボクのことを知ってるけど、ボクは彼のことをほとんど知らない。ただtwitter上でやり取りしている限り、たぬ吉さんと正反対な感じだった。それなのに会ってみたいと思ったのには、いろいろと理由があるけど内緒にしておく。ただボクは彼と数通のメッセージのやり取りをしただけで、漠然と惹かれる何かを感じていた。

 正直に言えば、彼と会うのは怖い。ただの30中盤過ぎのおっさんで失望されるかもしれない。でもきっと彼も怖いと思っているはずだ。

   これが福岡で踏み出す第一歩になる。

 さて……忘れないようにプレゼントのレインボーカップを鞄の中に入れて出かけよう。

<終わり>