以下、妄想再開。
「笑い事じゃないだろお前たち!」
部屋の奥の方から駅長が現れた。そして部下の駅員を相手に「お前たちホモの方に対してなんて失礼なことをしたんだ」とキツイ叱責を入れた。そしてボクに来客用のソファに座るように促してきた。
「すみません。鉄道会社としましても、これからはLGBTの当事者に配慮した施策に取り込もうとしていた矢先に、まさかホモの方に、とんだ失礼をしまして……」
そう言って駅長は慇懃に頭を下げた。
「ほう……それはどんな配慮ですか?」
「LGBT当事者への配慮」という言葉を聞いて、ボクは興味を持った。
「まずは駅のホームにLGBT専用トイレを用意しまして、LGBTフレンドリーな企業を目指していきます」
ボクはあまりに期待外れな取り組みを聞いて失笑してしまった。
「ふっ……その程度で、LGBTフレンドリーを呼称するなんて笑止ですな」
「何だって!」
ボクの馬鹿にした笑いを受けて、駅長は憤慨してソファから立ち上がった。
「まぁ……落ち着いて座りなさい。オタクの会社の取り組みは、全くぬるいと言ってるんですよ。あんたたちはLGBT当事者の声を全く聞いちゃいないぜ!」
あまりにありきたりな施策を聞いて、「やれやれだぜ」という感じで両手を挙げた。マジョリティ側の奴らはマイノリティ側が、どんなに苦しんで血を吐くような思いで日々精進して生きているのか、理解力もなく想像力もない奴らばかりだ。ボクたちマイノリティは毎日生きるか死ぬかの選択を迫られているのだ。
「そんなことはない! きちんとLGBT当事者が主催しているNPO法人がコンサルに入っている。それならあんたの意見を聞かせてもらおうか?」
怒りくるう駅長を前に、ボクは腕組みをして、もったいぶるように、ゆっくりと話し始めた。
「そうですね……私なら……まずは『LGBT専用車両』を作りますよ」
ボクの言葉を聞いて彼らはしばし言葉を失った。
「LGBT専用車両? 女性専用車両なら分かりますが?」
「馬鹿な。そんな専用車両なんて作る必要はないでしょう? 」
駅長だけでなく、話しを聞いていた駅員も口を挟んで来た。
「それなら、なんでボクはこの部屋に連れて来られたんですか? ホモなのに女性に対して痴漢したなんていう冤罪でね」
彼らはグッと堪えて下を向いて黙った。
「確かにこのホモの方の言う通りかもしれませんよ。私もホモの方と知っていたら痴漢扱いしませんでしたよ」
カービィのイヤリングを光らせながら彼女は言った。
「確かにLGBT専用車両を作れば冤罪は無くなるかもしれませんが、実際にはLGBT当事者と非当事者の区別なんてつきませんよ? せっかく専用車両を作っても果たして当事者が利用してもらえるかどうか? だってLGBT専用車両に乗るなんて、周囲に当事者だって公開してるようなもんですよ」
どうやら駅長は本当にマイノリティ側の気持ちが分かっていないようだ。
「だからあんたらは何も分かっちゃいない。そんな心配は不要です。LGBT当事者は勧んで自分からカミングアウトして専用車両に乗りますよ」
「カミングアウト? どうやってさせるんだ?」
「簡単ですよ。切符売り場を使うんです。券売機に大人一枚、子供一枚のボタンがありますよね。そこに新しくボタンを追加するんです 。LGBTの専用ボタンをね。もちろんLGBTの当事者用の切符はレインボーカラーにしていただきたいですな」
「なるほど。それでLGBT当事者か区別はできるかもしれない。その切符を持って専用車両以外に乗れば警報が鳴るようにすればね。でもボタンを用意しても押してくれるかどうかは別ではないでしょうか?」
ボクは彼らの理解力のなさに溜息をついた。もう説明するのめんどくさくなった。
「そんなことはありません。LGBT当事者というものは、常にカミングアウトしたいという願望を抱いていますよ。周囲にカミングアウトして『LGBT当事者らしく堂々と電車に乗りたいなー』とか『LGBTフレンドリーな電車に乗りたいなー』とか『もっと周囲にカミングアウトしてあるがままの自分を社会に受け入れて欲しいなー』という願望を持っているんです。私なら喜んで大人+ホモ一枚のボタンを押しますよ。電車に乗る度に周囲にカミングアウトできて、自分らしく生きられるなんて快感が味わえるんですからね」
「そんな願望を持ってるなんて全く知らなかった……」
「マイノリティの人たちが、そんなに苦しんでいたなんて……」
「私も全然知りませんでした」
そう……あんたらマジョリティー側の人間は、マイノリティ側の気持ちを全く知らない。電車に乗るというだけで、ボクらマイノリティーが、どれだけ懊悩呻吟してるのか。しばらくして駅長はボクを崇拝するような目で見て言った。
「なるほど、それだと切符だけでなく交通系のICも対応しなくてはいけないな。LGBTの選択肢を選んだ場合、レインボーカラーのカードを発行するように変更しないけない。そうだ車両もレインボーカラーにしたらどうでしょうか? すぐに上層部に掛け合ってみます!」
「やっと駅長もLGBT当事者の気持ちが分かって来ましたね。でもあんたはまだ詰めが甘いな」
そう……彼らは一番大切なことを分かっちゃいない。
<つづく>
あくまで妄想なのですが、気を悪くされた方いらしたらすみません。でも電車に乗る度に、どうせ痴漢に間違われるのなら男に手を出しと間違われた方が納得できる思っているのは本心です。そして電車に乗って普段からしている妄想をまとめました。自分で書いてても恐怖心を感じる文章です……orz