一人のホモが悩む年齢という呪縛<起編>

 もう1週間を切ってしまったけど、6月になるとすぐに誕生日がやって来る。次の誕生日を迎えると37歳になる。

 毎年、この時期になると普段の仕事に掛け持ちする形で、大学で学生を相手に講義をしている。そして講義をしている真っ只中、もしくは講義が終わった翌日に誕生日を迎えるパターンが5年くらい続いている。

 卒業に必須の科目で、彼らにとっては単位だけ取得したい共通科目に過ぎない。そもそも彼らが目指している卒業先の進路にも全く関係がない科目だ。ほとんどの学生が講義を聞いていないのは知ってる。正確に言えば講義を聞いているふりをしている。きっと頭の中では別のことを考えているだろう。雑談こそしないけど、早く終わればいいのにと思っているはずだ。

 ボクは大学時代には課外活動ばかりしていた。

 講義なんて単位を取得できればどうでもいいと思っていたから彼らを責めるつもりはない。ただボクは課外活動に関しては、必死にやっていた。それが社会人になりベースになってくれて助かっている。彼らも授業ではなくていいから、何か必死になれる別のものがあれば、それでいいいと思っている。高い学費を払って贅沢な身分だけど、自由な時間を有効に使えば、別に授業にこだわる必要はないと思っている。

 どうせ大学の講義は頼まれ事の仕事だ。

 ボクにとっては大人数の前で講義するという経験が得られれば、他に欲しいものはない。だから去年使った資料と全く同じ資料を使いまわししても問題ない。

 でも毎年、わずかだけど一番前の席に座って、必死にノートをメモしている学生がいる。少しでも真面目に聞いている学生がいるから、仕事の合間を縫って、去年使ったパワーポイントを見直して、この1年間で変わった点を見つけては修正したり、スライドを追加したりしている。ボクが関係している業界の最新の情報をなるべく盛り込んでいる。

 難しいけど、こうやったら分かりやすいかな?

 とか、時間ギリギリまで資料をいじっている。

 そういえば。あの時、ホモ教師が何か喋ってたなー

 何かの機会に少しでも彼らの頭をよぎってくれれば、ホモ教師としては冥利につきる。

 教室で話をしていると、学生から視線が痛いほど突き刺さってくる。

 当然なんだけど、講義を受けている大学生は毎年入れ替わっていく。

 講義を受けているはずの学生の方は歳を取らないのに、講義を行なっている自分の方だけが、一方的に歳を取っていくように感じてしまう。だから講義を行なっている最中に、いたたまれない気持ちになることがある。否が応でも徐々に自分が老けてくのを感じてしまう。彼らの若い熱気に押されてしまう。

 35歳を過ぎて少し経った辺りから、まじまじと鏡で自分の顔を見ていると、急速に老いていくのを感じようになった。

 今までなかった目尻にシワができた。

 頭のてっぺんの髪の毛が一気に薄くなった。

 2ヶ月くらい前だけど白髪を見つけた。

 あぁ……いよいよいっぱしの大人になったんだな。

 30歳を迎えた時は、そう思った。特に恐怖を感じなかった。

 あぁ……いよいよ人生の折り返し時点を迎えたんだな。

 35歳を迎えた時は、そう思った。少しづつ恐怖を感じるようになった。

 ボクには、いつか会わなくてならない人がいる。

 彼との間には、埋まることのない年齢差が存在している。 その年齢差が、彼と会うこと妨げている。

<つづく>