恐るべき子どもたち<6>

あの日以降も、S君は何度かボクの家に遊びに来た。

それからは彼との間には、何も起きなかったと書きたいのだけれど、もう一回だけ似たようなことが起こった。

「カーテン閉めて」

そうS君から言われて、ボクは理由が良く分からないまま、自分の部屋のカーテンを閉めた。そして部屋が暗くなると、彼のテンションが再びおかしくなった。ボクの手を急に握ってきて、前回と同じように、一緒にこたつに入るように促してきた。

この時、ボクは前回と違って冷静だった。

ボクの中に、彼のしてきた不可解な行動に対する答えがあったからだ。

もしかして彼の家族には男兄弟がいなから、ボクのことを兄弟のように思って甘えてきてるのかな?

そう思っていた。ただ、自分でその答えを見つけたのかと言うと、そうではない。ボクの両親が「男の兄弟がいなくて寂しそう」と言っていたのを聞いていたからだ。もしかして周囲の大人たちには、S君の姿がそんな感じで映っていたのかもしれない。

きっと弟がいたら、こんな感じなのかな?

そんな風に考えると、じゃれて抱きついてきたり、前回と同じように膝枕ならぬ股間枕をしてくる彼のことが気持ち悪いとも思わなかった。ボクには兄はいるけど弟がいなかった。甘えてくる彼のことを弟と思うと、なんだか新鮮な気持ちになった。

ボクらはこたつ布団の中に潜って、顔や体を寄せ合ってじゃれていた(よく考えたら顔が熱かったと思うけど)。抱きつくまではしていたけど、キスまではしなかったはずだ。

この出来事は、周囲の大人には言わずに黙っていた。S君以外にも近所に友達はいたけど黙っていた。

ボクとS君だけの秘密だった。

ただ二人の間で約束を交わしてわけでななかった。ただ何となく周囲に話してはいけないことだと直感的に察していたんだと思う。

その後、S君は幼稚園から小学校に上がる前に、親の仕事の都合で引っ越していった。大所帯だったから、引っ越しの荷物も沢山あって、数台のトラックに分けて運ばれていったところまで覚えている。最後に彼と交わした言葉は覚えていない。おもちゃを交換したのだけは覚えている。

その日から彼とは顔を合わせていない。

ボクは自分が同性愛者と気がついた時。なぜ自分が同性愛者になったんだろうと過去を思いだしていくと、一番最初に同性との接触で思い当たるのが、S君との思い出だった。ただ、ボクは彼が同性愛者だと思っていない。幼少期には、男性と女性の区別がはっきりしていないくて、こういったことが起こりうるのではないかと思う。

彼が出ていって家は、すぐに次の入居者が見つかった。今でも幼少期と、ほとんど変わらないままの姿で家は残っている。ボクは彼の住んでいた家の前を通り過ぎる度に、あの日起こった出来事を思い出しながら考え込んでしまう。

ボクが同性愛者になった、そもそものきっかけはS君なのかもしれない。でも別にS君を恨んでいたりもしていない。だってボクは同性愛者だけど別に後悔もしていないからだ。

性欲の目覚めもない幼稚園時代のことだったけど、でも少なくともあの時。ボクは微かに興奮していた。生まれて初めて人と体を触れ合って興奮していたと思う。しかもその相手が、異性じゃなくて同性だったなんて。今のボクの状況を暗示するような出来事だったと思う。

<つづく>