その後、S君との出来事から、一直線に同性愛に目覚めた訳ではない。
小学生になって1年生と2年生の時に、同じクラスになったMさんという女の子
のことが好きになった。ただ3年生になってからクラスが離れて、あっという間に恋愛感情は無くなってしまった。
ボクの人生の中で、この2年間が女性を好きになった唯一の期間だった。
このMさん以降は、異性と同性を問わずに誰にも恋愛感情を抱いていない。次に人を好きになったのは中学時代になってからで、もう立派な一人前のホモになっていた。
Mさんは、頭のいい女の子だった。ボクはあっという間にMさんと仲のいい友達関係になっていた。でもボクにとっては、女の子と友達関係になるのは自然なことだった。
以前も書いているけど、ボクは物心がついた頃から、女の子とばかり遊んでいた。
たまたま住んでいた団地が女の子しかいない環境で、引っ越しするまでは、男の子と遊んだ記憶がほとんどなかった。ずっと団地にいる女の子たちとばかり遊んでいた。ボクの兄貴の年齢になると、逆に男の子ばかりだったけど、幼稚園に入る前のボクには、体力的にも体格的にもついていけない遊びばかりしていて、一緒に遊んでもらうことはなかった。
そんな状況で育った影響もあって、女の子と友達になるには得意だった。Mさんとも最初は友達感覚のように接していた。
でもある日、小学校から帰って来て、翌日の授業の教科書をランドセルに入れている時だった。頭の中をMさんのことがよぎった。
明日もMさんと会えるんだ。
そう思うと嬉しくてたまらなくなった。部屋の中で訳もなくはしゃいでいた。まさに恋は突然に嵐のように訪れた感じだった。それまでは全く恋愛感情を持っていなかったのに、ある日を境に人生が変わってしまった感じだ。
それからMさんと教室で話す度にドキドキするようになった。これが恋愛感情というものだと気がついたのも、この時期からだった。
「神原ってMのこと好きなんじゃない?」
目ざといクラスメイトが、そう言って冷やかしてきた。
でも図星である。というか女性を相手に「◯◯のこと好きなんじゃない?」と言われて、それが当たっていたのは、この時だけだった。
中学時代からカミングアウトしていたので、
「神原って◯◯(男)のこと好きなんじゃない?」
に変わってしまった。それはそれで当たってたんだけど。
大学時代から同性愛者であることを隠すようになったので、
「神原って◯◯(女)のこと好きなんじゃない?」
に戻った。
それはない。外れだよ。だってボクはホモだからね。
と、密かに思っていた。
ただ流石に大学時代になってくると、冷やかすような言い方をする人はいなくなっていた。大学時代になってから「好き」という感情を抱くということは、肉体関係を結びたいという願望につながってくるので、生々しくなってなるからかもしれない。裏でこそこそ言ってるくらいだった。
これは、ここに書こうかどうか迷ったんだけど、嫌悪感を抱かれることを覚悟して書くことにする。
たった小学時代の一度の女性に対する恋愛だけど、ボクの中では優越感を感じるような出来事だったりする。
過去に出会ったゲイの人から
「女性を好きになったことは一度もないんだよね」
と言われた時、
ボクは
「小学時代に一度だけ女性を好きになったことがあります」
と返している。
その返答をしながら「ボクは根っからのホモじゃないんだぞ。ちゃんと女性を好きになったこともあるんだぞ」という、全く意味のない自尊心のようなものを抱いていないかと言えば嘘になる。
<つづく>