恐るべき子どもたち<8>

そんな風にしてボクは「過去に女性を好きになったとことがある」と言うことを密かに自尊心として持っていた。一度も女性を好きになったことがないとゲイと会うと、心のどこかで見下していた。 

ボクの一生一度の異性恋愛は進展もなく友達のまま終わった。クラスが替われば、あっという間に、彼女への恋愛感情は消えていった。

そして異性の影が遠のき、再び忍び寄ってくる同性の影。

ボクがS君に続いて次に同性と接触したのは、小学時代の修学旅行で同級生と寝た時だ。

朝起きたらボクの布団にクラスメイトが入って添い寝していた。まだボクの方が同性愛に目覚めていなくて、朝になって目を覚ましたら、すぐ近くにクラスメイトの顔があって驚いた。

なんで一緒に寝てるんだろう?

そう不審には思ったけど、素知らぬ顔をして周囲には秘密にしておいた。この件に関しては過去にも書いているので、ここでは詳しくは書かない。

逸れまくった話は、ようやく新幹線の兄弟に戻る。

新幹線の通路を挟んで隣の座席でキスをしている兄弟。ボクはコソコソと本を読むふりをしながら盗み見していた。

頭の中にふつふつと沸き起こってくる嫉妬心。

くそ……ボクなんて初めて同性とキスしたのは、中学時代に修学旅行の劇で衆人環視の状況でなんだぞ! 

それに初めて同性と抱き合ったのは、大学時代で掲示板を通して出会った女装子と路上でなんだぞ! 

それらを小学生の段階で経験してしまうなんて許せないぞ!

こう書いてて思ったけど、結構すごい人生を歩んできているように思えてきた。

ボクは子供には興味がないけれど白昼に堂々とキスしている姿を見ていて興奮してきた。

これはヤバイ……ショタコンに目覚めそう。

新しい性癖に目覚めそうな衝動と戦っていた。でも戦っていたのは上半身の理性だけで、下半身は全面降伏していた。残る上半身の理性も陥落寸前だった。

彼らのキス行為に参加したかった。もし弟が手招きをすれば、「どうも……気を遣わせてすみませんね」と頭を下げてヘラヘラ笑いながら参加しただろう。まるで有料ハッテン場で誰かがヤってるのを見ていて、手招きされて参加するのと同じだ。

やっぱり端から見ている限りは、弟からキスをせがまれて兄の方は困っている感じがしていた。キスを止めてしばらくすると、また弟が兄の顔に顔を近づけてキスをせがんで、兄は「しょうがないな……」という顔をしながらキスをしてあげていた。ただキスをすると気持ちがいいみたいで、兄の顔もまんざらではなさそうだった。

新神戸を出て岡山駅に向かっていると車内販売が来た。

兄弟はキスを止めて車内販売の女性に声をかけてお菓子を買っていた。「ちゃんと買い物できるのかな?」と心配で見ていると、さっき新幹線に乗る前に、母親が「何かあった時に使うように」と言って渡した財布からお金を出していた。

ボクは再び驚かされた。

ちょっと待って……それはお菓子を買うためにお母さんが渡したお金じゃないと思うけど? まぁ……そこは細かい事情は分からないからいいけど、さっきからリュックサックの中のお菓子を全部出して食べてるけど、それは新幹線の中だけで食べる量じゃない。岡山のお爺ちゃんの家に行ったときに食べるお菓子も含まれていると思うぞ。

販売員からお菓子を受け取ると、すぐに包装紙を開けて食べ始めた。座席の前のトレーには、彼らが食べたお菓子が散乱していた。

なんて恐ろしい子供たちなんだろう……

性欲に食欲。

人間の欲求に本能のままに従っていく子供たちを前に、ボクはただ呆気に取られていた。

<つづく>