ノンケに生まれ変わりたい<13>

ボクと片原さんは、三条京阪で待ち合わせしていた。

そこに「第二の男」が現れた。

ボクの方が先に待ち合わせ場所に着いて待っていると、彼女に連れ添うように「T先輩」が一緒に来た。

T先輩は同じサークルの仲間だった。彼女から事前に連絡をもらっていたから、T先輩がいたことに別に驚くこともなかった。ボクらは目的地に向かって一緒に歩き出した。三条京阪駅から鴨川を沿って北に向かって歩き出した。目的地ではイベントが開催されていて一緒に行ってみることになっていた。

いつものようにボクと彼女が一緒に並んで雑談して歩いていると、その間にT先輩の身体が割って入ってきた。明らかに強引に割り込んできたので、さすがに鈍いボクでも状況を察した。

どうやらT先輩は彼女のことを狙っているようだな。

ボクはそっと彼女と距離を取った。彼女を観察してると、T先輩の意図には流石に気がついているようで防御反応を示していた。そんな彼女の防御反応を無視して側を確保しようとするT先輩がいた。

この人は……本当に分かりやすいな。

ちなみにT先輩は、片原さんが以前に付き合って別れたS先輩とも仲が良かった。S先輩と別れて彼女がフリーになったから、次の座を狙って現れたという訳だ。T先輩はボクを敵視しているようで、あくまでボクと彼女の会話を邪魔し続けた。

そんな心配しなくていいのに……

ボクは彼女のことを「女友達」としか思っていない。

彼女はボクのことを「男友達」としか思っていない。

そんなことを考えながら、ボクは鴨川沿いに見える「ある公園」に目を移した。

その公園は鴨川に接していて、子供達は川に入って水遊びをしていた。その遊んでいる姿を離れた木陰からママ友たちが見守っていた。

ボクは昼間とは全く違う、夜間の「ある公園」の姿に思いをはせた。あの公園が夜間になると、ゲイが集まる場所で野外のハッテン場になっていること知っていた。

片原さんもT先輩も、ボクが夜に公園に行って、他の大学のゲイ仲間や大人のゲイ仲間と雑談したことがあるなんて思ってもみないだろうな。

あの公園には、ノンケの彼らには知らない世界があることを知っていた。そんなことを思いながら一緒に歩いていた。

その日。T先輩は一日中、彼女の側を確保していた。

でもボクはなんとも思わなかった。イベントは楽しかったから、それで満足していた。ボクにとって彼女は気が合う「女友達」以上になりえなかった。

夕方にイベントが終わってから、ボクらは三人で四条河原町の洋食店で食事をすることになった。そして食事中に片原さんがトイレに行くために離席した。

ボクとT先輩の間に、なんだか気まづい雰囲気が漂い始めた。

先輩はタバコに火をつけて吸い始めた。ボクは目の前のパスタを食べることに集中した。

ボクはT先輩とは仲が悪い訳でもなく良い訳でもなかった。二人きりになるのはこれが始めてだった。なんとなく気まづい雰囲気から先輩が何を言い出すのか察した。

「神原は片原さんに興味はないの?」

「ほらね。やっぱり来た」と思った。いつもの同じ質問だ。

「全くないです。ただの友達としか見ていないです」

そういつもの通りに答えながら、手に取ったピザを口の中に放り込んだ。

<つづく>