ノンケに生まれ変わりたい<15>

この頃、ちょうどサークル活動に対して嫌気がさしていた。大学生同士で集まって騒いだところで、これ以上は得るものがないように感じていた。それにサークルを辞めたついでに、そのまま大学からも距離を置くことにした。ちょうど別にやりたいことが見つかっていたから、いい機会だと思った。

ボクは自分が好きだと思っている一部仲間だけを除いて、付き合うことのを止めた。

高校時代はホモキャラを演じて、同級生から嫌われまいと必死だったけど、大学生にもなると、もう自分が好きでもない人から嫌われてもいいと思えるようになっていた。自分が真面目に生きてて、それで嫌われるのであれば、それでいいよと思うようになっていた。

一方、片原さんはS先輩とT先輩との関係以降、「男性」という生物に、さらに嫌気がさしていたようだ。

年末に実家に帰省したタイミングで、妹の本棚にBL本が大量にあるのを見つけたらしい。そのBL本を読み漁った結果、ますますBL脳が発達していた。今までよりもBLの世界に没頭するようになっていた。

そういえば彼女と食事をしながらBL話をしている時に、ふと気になって、こんな話をしたことがある。

「この前、ネットの掲示板に書かれてて初めて知ったんだけど、ゲイの人たちが出会うための場所が世の中にはあるらしいですよ」

ボクは男性同士のカップリングが好きな彼女が、リアルな男性同士のカップリングが行われているゲイの世界についてどれくらい知っているのか試しに訊いてみたのだ。

「えっ。どんな場所なの?」
「ハッテン場って言うらしいです」

素知らぬ顔をして言ってるけど、ボクはゲイでハッテン場に行っている当事者だった。

「ハッテン場?何それ?」

やっぱり知らないんだなと思いつつ、彼女に「有料ハッテン場」や「野外ハッテン場」について簡単に説明した。さらに「一部の銭湯」などが、ゲイの出会いの場になっていることを、インターネットで読んで知ったかのような雰囲気を装いながら説明した。

「えええぇー。行ってみたい! 」

彼女は目をキラキラと輝かせながら、「どこの公園がハッテン場なの?」「今から行ってみない?」と騒ぎ出した。

「いやいや。あくまでネットで見かけた情報だからデマかもしれませんよ!」

ボクは慌てて彼女を諌めた。本気で行きかねないと思って心配になった。「言うんじゃなかった」と後悔した。彼女なら野外のハッテン場に、肝試し気分で行ってしまいそうだった。

きっと彼女が頭の中では、同人誌の世界のように美少年同士が肉体関係を交わしている姿を妄想しているに違いない。でも現実の男性同士の肉体関係は同人誌のような綺麗な世界と違うと伝えたかった。でも、それ以上深く説明しようも、「どうして詳しく知ってる?」と質問されそうでだったので止めた。

とにかく「夜の公園に女性が一人で行くのは危険です!」と念押しして、彼女を諦めさせた。

こんな馬鹿な話をしている二人だけど、ボクも彼女も別々の道を模索していた。

ボクも大学から離れて、自分の興味のある分野に力を注ぐようになった。彼女も大学から離れて、自分の興味のある分野に力を注ぐようになった。

そして時々はキャンパスで会って、近状報告をしていた。ボクと彼女はライバルのような関係になっていた。

今でも彼女と会って話すと「この時期があってよかったね」と二人で振り返ることがある。大学とは別の世界を築くのに大変な時期ではあったけど、毎日が楽しかった。

ボクがこの時期に、どんなことをしていたのか書くことはできない。

ただ、このブログを書きながら、LGBTのパレードやイベントやシンポジウムに行ったりと、フットワークが軽く様々な活動をしている原点が、この時期にある。それが今の仕事のやり方にもつながっている。

この時期が、大学時代で一番楽して充実していた。このまま就職活動を迎えて、無事に大学時代が終わればいいと思っていた。

でも、このまま順調に行くと思ったら大間違いだった。それは彼女にとって「第三の男」が現れたからだ。

<つづく>