ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています@福岡

ノンケに生まれ変わりたい<16>

「最近、好きな人ができたかもしれない」

片原さんと大学近くの繁華街で晩御飯を食べていると、そんなことを聞かされた。

「へぇーそうなんですか。知ってる人ですか?」
「うーん。どうだろう。知ってるかもしれない」

「知ってるかもしれない」って、変な回答だなと思いつつも、ボクはそれ以上の追求はしなかった。頭の中で知り合いの顔を何人か思い浮かべたけど、心の辺りはいなかった。もしかしたら、大学外の活動で新しく出会った男性がいるのかと思った。

「片原さんが幸せになれる人だったら誰でもいいですよ」

ボクは相変わらず女性に興味がないから、彼女がどの男性と付き合おうと構わなかった。彼女が幸せになれる相手であればいいと思っていた。こんな言葉をさらりと口に出すことができるのも、ボクが本心からそう思っていたからだ。

ただ、ボクの言葉を聞いた彼女が一瞬だけ「ピクッ」と反応したのを見逃さなかった。それから彼女の反応を見ていて、なんだかいつもと違う雰囲気を感じるようになった。

嫌な予感がする。

彼女のボクを見つめる視線が、いつもと違う気がした。ボクの体に絡みつくような感じがした。今までのように仲のいい「男友達」という、気軽な視線ではないように感じた。

いやいや……「男友達」が欲しいと言っている彼女に限ってないだろう。

彼女は「第一の男」のS先輩と別れた後も、「第二の男」のT先輩に付きまとわれた後も、「もう男はこりごり。男友達のままの関係が一番いい」と言っていた。それにボクにとっても、「女友達」は気軽に話せる相手で、彼女はBL話など「男✕男」という関係を、忌憚なく話せる得難い存在だった。

ボクは深い入りしないことにして、いつも通りに会話を続けて店を出た。

やっぱり嫌な予感がするな……

そんな思いを抱きながら彼女を家まで送ることにした。

しばらく一緒に歩くと、彼女がボクの手を握ってきた。

驚いたけど、すぐに彼女が手を握ってきたことに気がついて平静を装った。

いつも通りに話が途切れないように会話を続けた。ただ彼女と手を繋いで歩いているという点だけは、いつも通りではなかった。

あぁ……やっぱり嫌な予感が当たってしまった。

キャンパス周辺を歩けば、いたるところで目につく男女のカップル。ボクらも周囲から見れば、男女のカップルに見えるんだろうけど、そう思うとなんだか複雑な気持ちになった。

手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。手を早く離して欲しい。

そう頭の中で繰り返していた。一刻も早く手を繋いでいる状態を終わらせたかった。

彼女の家の前までつくと、ボクは作り笑顔をしながら「じゃあね。バイバイ」と言ってすぐに別れた。彼女の顔をほとんど見ないまま逃げるように去った。

そのまま一人で帰り道を歩きながら、

いやいや……手をつなぐだけなら「男友達」に対してもするだろうし、「嫌な予感」は外れているかもしれない。

そう思うことで平静を取り戻すように努めた。

数日後、キャンパス内で会った共通の知人を経由して、ボクは「彼女の気持ち」を知ることになる。ボクの感じた「嫌な予感」は的中していた。でも、ボクは「彼女の気持ち」を聞いても気が付かなかったことにして、いつも通りにメールを続けていた。彼女はメール上では、いつもと変わらずに返信してきた。

ボクにとって、彼女は「女友達」以上になりえなかった。ボクらは「男友達」と「女友達」の関係。お互いの利害が一致して求めた男女関係。ずっとそう思っていたけど、その関係の均衡が崩れつつあった。

彼女は「女性」で、好きな人の対象が「男性」。

ボクは「男性」で、好きな人の対象が「男性」。

その食い違いが徐々に二人の関係上に現れてきた。

彼女にとっての「第三の男」が現れた。それはボク自身だった。

<つづく>