そんなこんなで、ボクは彼女から恋愛感情を抱かれてると気がついてからも、特に何も行動を起こすことはなかった。ただ卒業まで、今のまま友達関係が続けばいいと思っていた。
「結局、一番最後まで残った男性が神原君だった。いつも側にいて優しくしてくれるよね」
彼女の気持ちがボクに向いていると気がつく少し前に、こんなことを言っていた。「何を言ってるんだろう?」くらいにしか思わなかったんだけど、後から考えたら、その頃から既に怪しい状態になっていた。
悪いけど……それは誤解だよ。ボクは優しい人間ではない。
ボクはゲイだから女性になんの恋愛感情を抱かないだけだ。それも極めて利己的な人間で、「いっそ彼女がレズビアンだったらよかったのに。そうだったら、ボクらはずっと友達関係のままでいられたのに」と、何度も考えていた。
ボクが女性を好きになったのは小学時代だった。それが最初で最後だった。
もう女性に恋愛感情を抱くという感覚を忘れてしまっていた。手のひらのスノードームをまじまじと眺めても、当時の自分の姿を思い出すことはできても、当時の高揚した感覚までは思い出すことはできなかった。ボクの中の「バラのつぼみ」は、ガラクタに紛れてどこにあるのかすら分からなくなっていた。
やっぱりどう考えても、ゲイのボクには彼女に恋愛感情を抱くことはできなかった。それに彼女に肉体的な欲求を抱くこともできなかった。そこら辺のキャンパス内を歩いている、見知らぬ男性の方が、よっぽど彼女よりも可能性があった。でも見知らぬ男性と違って、彼女が大学時代に出会った人の中で一番好きだった。
結局、ボクと彼女の間にある問題点は、ボクの性嗜好だけだった。
いっそ彼女にゲイであることを打ち明けてみようかと思った時期もあった。BL好きな彼女なら「リアルBLが見れてラッキー」とか言ってくれるんじゃないかと思った。それに彼女なら他の同級生に話すことも絶対にしないと思った。ただ好きになった男性がゲイだったという事実を知らせるのも酷だと主思って、胸に秘めたままにしていた。
とりあえず、ボクは彼女のこと「女友達」には思えないのだから、そのままの関係で居続けようと思った。
そんなある日のことだった。
パソコンを買い替えたんだけど、インターネットにつながらないから助けて欲しい。
彼女からそんなメールが送らてきた。
へぇ……しょうがないな。
あまり深く考えることなく、ボクは彼女の家に行った。
お互いにバイトが終わってからだったので、23時を過ぎて家に着いた。ボクは部屋の隅のパソコンデスクに座って、ネットワークの設定を確認していた。
しばらくすると部屋が静かになったので、彼女が何をしてるんだろうと思って目を移した。
彼女はベッドに寝転がっていた。そして無言でボクの方を見つめていて、完全に目が合ってしまった。
もしかして……これはかなりヤバイ事態になってるんじゃないだろうか?
いつもなら彼女なら、きちんと卓上テーブルの前に座っていた。無防備にベッドに寝っ転がっている姿なんか見せたことはなかったので、ものすごく違和感を感じた。ボクはネット接続の設定画面と、モデムについていたADSL接続マニュアルを見ることに集中した。キーボードを叩く手のひらが汗ばんできた。
いやいや……勘違いかな? バイトで疲れて彼女も眠たいだけかもしれない。
そんなことを思いつつも、パソコンの画面に集中したけど、目の端の方で、彼女が何も言わずにじっとボクの方を見ているという視線を感じた。
どうしたらいいのだろう。
「このパソコンって買ってどれくらいなんですか?」「インターネット以外はどんなことに使ってるんですか?」とか、とりとめのない話題を振って時間を潰した。。
この状況って……ノンケの男性ならどうするのだろう?
平静を装いながらも、この状況からどうやって切り抜けたらいいのかフル回転で考えていた。
<つづく>