ノンケに生まれ変わりたい<19>

彼女のアパートから逃げ帰って数日後の夜。風呂から上がってパソコンデスクに座っていた。

ゲイの出会い系の掲示板や、有料ハッテン場の掲示板を眺めていた。それに、このサイトで何度も名前が出ている『京都ハッテン場ガイド』を眺めていた。このサイトには、ハッテン場の紹介ページだけでなく、出会い系の掲示板もついていた。『ぷちむげ』という管理人の「Mugen(むげん)」さんの名前から取られた掲示板だった。京都市内に住んでいるゲイの人たちの多くは、この掲示板に書き込んでいた。大手の出会い系掲示板サイトよりも、『ぷちむげ』の書き込み件数の方が多かった。

大学時代、これら同じサイトを何千回と繰り返して見ただろう。

今日こそ、真剣に付き合える運命の相手と出会えるんじゃないかと期待して開いていた。でも最後まで出会うことはなかった。

そういったゲイサイトを見ていると、机の上に置いていた携帯電話が鳴った。手にとって確認すると、サークル仲間からメールが届いていた。

「早く片原さんのMIXIの日記を見た方がいいよ!」

大学時代の中盤以降「MIXI(ミクシィ)」が急速に広まっていた。ボクは表向きの「ノンケ専用のアカウント」と、裏向きの「ゲイ専用のアカウント」を使い分けていた。

ちなみに当初「MIXI」がどんなものか分からずに、ゲイアカウントを作って数週間ほど、実名を入力していた。友達リストが招待者以外にいなかったからよかったものの、後から考えても冷や汗が出て来る。

ゲイ向けのアカウントに関しては、仕事で京都に来ていたゲイの方が招待してくれた。偶然にもボクと同じ出身地の方だった。ただボクも彼の本名を知っていたので、お互い様だった。この方についてはいつか書くことにする。

片原さんが何を書いてるんだろう?

サークル仲間からメールを受け取って、すぐに思い当たることがあった。

まさかゲイ向けのアカウントを裏でこっそり使ったのがバレたんじゃなかろうか?

と心配になった。彼女のBL嗅覚が、ボクのゲイ専用のアカウントを嗅ぎ当てたのかもしれないと心配になった。

これは別々のアカウントを使い分けていたら、よくある心配だった。間違えてゲイアカウントでログインしたまま、ノンケの世界に踏み込まないように注意しなくてはならない。ゲイアカウントでログインしたまま、ノンケ友人の名前を検索して「足跡」を残すなんて絶対にしてはならない。ボクのゲイアカウントの方は、自画像を掲載していないし、日記も書いていなかったので、見た目はノンケのようだった。でも友達リストには、何人か上半身裸のゲイの写真があった。

ボクはノンケ専用アカウントに切り替えてログインして、彼女の「MIXI」の日記を開いた。

どうやら日記のタイトルを見ただけで、心配は杞憂だと思った。ただもっと別の恐怖感が襲ってきた。

なんだか……嫌な予感がする。

彼女の日記を開いて、読み進めていくと予感は確信に変わった。

彼女の日記には「ある人」への思いが赤裸々に綴られていた。

ボクはパソコンの画面を前にどうコメントを書いたらいいのか迷っていた。

<つづく>