いつの間にか、好きな人ができたんですね。その人と付き合うことになったら紹介してくださいね。
自分の入力した文章を読み直すと、そらぞらしくて吐き気がして自己嫌悪になる。付き合うも紹介するもない。相手はボク自身なのだ。
ボクは彼女が真剣に書いた文章に対しての、同じように真剣な気持ちで答えることができなかった。
「ごめんなさい。友達としか思えない」
と返答しても、そこにはまだ嘘が含まれていた。
もし真剣に嘘偽りなく返答をするのであれば、
「ごめんなさい。ゲイだから友達としか思えない」
となる。
でも、ボクは自分がゲイであることを隠して生きることを決めていたから、そんな書き込みをするつもりはなかった。大学生になってから、ゲイであることを数年間にわたって隠し続けて生きてきたのに、その空しい努力を無駄にすることはできなかった。
ただ、ボクがゲイであることは別にしても、ボクには彼女を「好き」でもないと告げることはできなかった。そんな勇気もなかった。ただ適当にはぐらかすことしかできなかった。
ボクは震える手で投稿ボタンを押した。
しばらくしてパソコンの画面を更新すると、彼女から返信の書き込みがあった。彼女もボクと同じようにパソコンの画面の前に、へばりついていることが分かった。
すぐに読みたい気分ではなかったけど、彼女の返信コメントに目を通した。
ありがとう~。いつか付き合うことになったら紹介するね。
ボクは彼女の書き込みを読んで安堵した。もし更に追い詰めるような書き込みをしてきたら、どう反応したらいいのか全く考えてなかったからだ。
ボクらのやり取りが終わると、それまで傍観していた人たちの書き込みが、堰が切れたように次々と投稿された。「頑張ってね」とか「応援してる」とか、どうでもいい書き込みが続いた。でも頑張るも何も、最初のボクらのやり取りで全てが終わっていた。ボクの書き込みと似たような、そらぞらしい書き込みが続いていた。
ボクはそれ以上の書き込みをしなかった。
これで……もう全て終わったよね。もう元の友達関係に戻れるよね。
そんなことを思いながら安堵していた。でも今頃、彼女はあのアパートのパソコンの前で、どんな気持ちで座っているんだろうと思った。ただ彼女を傷つけているのは分かっても、自分の書いた書き込みに後悔の気持ちはなかった。短い時間で考えれる最善のコメントをしたつもりだった。
パソコン画面に投稿され続ける励ましのコメントと、彼女の返信コメントを眺めていたけど、見るに堪えなくなってMIXIの画面を閉じた。
しばらくして、ボクらはもとの「男友達」と「女友達」の関係に戻った。
今までのように夜遅くまで二人で遊んでいた。
今までのようにバカみたいなBL話もしていた。
ただ、彼女のアパートまで見送っても、部屋に入ることは二度となかった。
<つづく>