深夜のカミングアウト<12>

「ボクから送ったメールを読んで、どう思ってるの?」

彼に一度だけ質問したことがある。

「深く考えないようにしてるよ」

彼は笑いながらそう言った。

彼の言葉に聞いて、

いやいや本気に取って欲しいんだけど?

と、少し傷つきながらも、

そりゃ本気に取っていたら精神的に持たないよね?

と納得もしていた。

ボクは彼にメールを送りながらも、彼が付き合ってくれるなんて夢にも思っていなかった。彼とデートやセックスしている妄想はしていたけど、それが現実になることが「絶対にない」ということは理解していた。ボクができることは、彼に似た人が出ているゲイ動画を探して、その動画に出ている男性と彼を重ねて性欲を処理するくらいだった。

ボクは「ゲイ」で、彼は「ノンケ」。

その差が埋まることは絶対になかった。

だから、彼が取ったスルーという選択は最良だったのかもしれない。

ボクは毎日のように村上君とメールのやり取りをしていた。

そして、自分の携帯画面に入力している文面を見ていると、過去に同じようなことをしていたことに気がついた。

ボクは高校時代に好きになった同級生を相手に面と向かって告白していた。

恐ろしいことに毎日のように告白していた。その同級生に言っていた言葉と、村上君に送っているメールに書いた言葉が似ていた。

過去を振り返ってみると思うことがある。

ボクが好きになった人は、ボクが「ゲイ」であることを知っても、面と向かって拒絶してきた人がいないということ。

彼らは「こいつは仕方がないな」という感じで、拒絶する訳でもなく、受け入れる訳でもなく、軽く受け流してくれた。一人の友達のまま変わらず受け入れてくれた。

中学時代のN君にしても、高校時代の松田君にしても、社会人時代の村上君にしても。

ボクは今、同じ職場では好きな人がいるけど、その人もボクが「ゲイ」だということを知っても、特に変わらずに接してくれるという確信している。

もともと、ボクがゲイであることを打ち合わけても、許容できるような人が好きなのか、それを無意識に見極めてから好きになっているのかもしれない。

ただ、とにかく激しく拒絶された経験がないのは確かだった。この経験は、ボクの中で大切な物になっていると思う。

でもボクとしては毎日、彼に「好きだ」という表現に近いメールを送りつつも、自分がゲイであることまで打ち明けているつもりはなかった。メールの文面を読めば、どう考えても「ゲイ」だと打ち明けているんだけど、そう思っていなかった。

ボクらの関係は二人の間だけで「暗黙の了解」になっていた。

ボクは相変わらず職場の同僚から「ホモ」と声をかけらて、「違いますよホモじゃないですよ」「そうですね。○○さんとなら寝れます」といった、お馬鹿な発言を繰り返していた。

彼はそのやり取りを近くで見ながら、知らん振りして仕事をしていた。

きっと彼の頭の中では、

神原はガチでホモですよ。

そう思っていたに違いない。

<つづく>